金融取引への課税はまったく見当違いだ--ケネス・ロゴフ ハーバード大学教授
9月末に欧州委員会は、欧州の景気低迷と金融問題に対処するために、金融取引税(FTT)の導入に向けた法案を提出した。欧州はすでに苦境に立っているのだから、もっと痛めつけてもいいのではないか──。FTTの背後には、こうした考え方があるようだ。
金融取引への課税には、感情に訴える効果がある。欧州諸国の一般国民は、モノやサービスを購入する際にはほぼすべての場合、付加価値税を払う。ならば、株式・債券・デリバティブの購入についても課税すべきだ、という考えだ。この種の税が直撃するのは、一般の人々よりも、豊かな人々や金融機関である。
欧州委員会の推定によると、株式と債券の取引へのわずか0・1%の課税とデリバティブへの0・01%の課税だけで、1年当たり500億ユーロを上回る税収が見込めるという。加えて、FTTを導入すれば、金融市場の不安定化要因である投機に歯止めがかかるだろう。
だが、実際にはそれほど単純な話ではない。FTTは、リベラル派の経済評論家や正義感に燃えたNGO(非政府組織)には支持されているものの、意義のある成果を上げるためのアプローチとしては、まったく見当違いだといわざるをえない。
確かに、ケインズや、ノーベル経済学賞の受賞者であるトービンなどの偉大な先達が、経済の不安定な動きを抑えるための方策として、金融取引課税に関するさまざまな見解を展開した。しかしその後に行われた研究の結果は、金融取引税に否定的な見解を示している。