いつの間に「宇宙」は戦争の瀬戸際にあった 米・中・ロの間で新しい冷戦が勃発している
他の衛星を無力化または破壊が可能と考えられるシステムがいくつあるのか、一部については数えるができる。とくに地上に配置してある兵器の一部は非常にはっきりしているので、数えるのは簡単だ。
たとえ宇宙兵器を正確に数えることが難しいことを考慮したにせよ、一つ明確なことがある。米国は世界で最も武装化の進んだ宇宙大国である。かといって他国の側が武装化を進めようとしていないわけではない。
モラトリアムを経て宇宙での新冷戦が勃発
地球周回軌道は、常に危険な場所だった訳ではない。ソ連が最後に人工衛星を破壊したのは1982年の実験のこと。米国が最後の冷戦の衛星攻撃ミサイルを、垂直に上昇飛行するF-15戦闘機から発射したのは1985年のことだ。
それからおよそ30年が経過した。そのほとんどの期間において、両国(米国とロシア)は宇宙における兵器の展開を自粛していた。Union of Concerned Scientistsの宇宙専門家のLaura Grego氏の表現を借りると、「非公式なモラトリアム」によって宇宙空間の武装化に歯止めがかかったのである。
ところが今世紀に入ってから変化が表れる。2002年にブッシュ大統領により米国はロシアとの弾道弾迎撃ミサイルの配備を制限する条約から脱退した。この動きによりブッシュ大統領は迎撃ミサイルの配備への道を開き、政府関係者は北朝鮮などの「ならずもの国家」からの核攻撃から米国を守ると主張した。しかし、条約脱退は宇宙の利用を平和目的に限るという合意を弱体化させることにもなった。
それから5年経った2007年1月、中国は衛星攻撃システムの初期バージョンのテストの一環として、自国の古い人工衛星を地上から発射したロケット弾を命中させた。これにより潜在的に危険のある非常にたくさんの残骸が低軌道にまき散らされることとなった。中国による衛星攻撃実験は宇宙空間の武装化を加速させた。特に米国はこの機会を捉えて大幅に軌道上の武器庫を拡張した。
米国の企業と政府機関は少なくとも500の人工衛星を保有しており、これは他の国々が保有する数を合計した数とほぼ同じである。そのうち少なくとも100個は事実上、軍用目的である。ほとんどは通信か偵察用途である。言い換えれば、衛星は地球に向けられている。
しかし、自力で巡回できるものは少ない。2009年に高度800マイルの軌道に打ち上げられた米軍のATRR衛星はロケットの発射による噴煙や、作戦行動中の宇宙機を発見できる高精度の赤外線カメラを配備している。この衛星は地上にいる人間のオペレーターによる操作で、詳細な追跡データをビームで転送できる。
リスク低減衛星は他の宇宙機体や地上基地にあるセンサーと連携して、地球にある約1000個の運用中の人工衛星の経過を追跡している。空軍の概況報告書によれば、2010年に発射された望遠鏡のような宇宙空間の宇宙偵察衛星は「地上390マイル上の周回軌道にあるresident space objectsに対して良好で障害物がない視界を保つことを目的としている」とのことだ。「resident space object」とは軍事用語でいうところの人工衛星である。