このような、笑い話のような自己矛盾は、イノベーションを志す「キリギリス型社員」なら一度や二度は感じたことがあるかと思います。
「自分が出したアイデアを、少なくとも1回は人に笑われるようでなければ、独創的な発想をしているとは言えない」とは、ビル・ゲイツの言葉です。
これも、職場に存在する根本的なジレンマを語っている言葉と言えるでしょう。ここにもイノベーションや新しいことを始めるときの「アリ型思考」と「キリギリス型思考」の基本的価値観の相違が存在しているのです。
そもそも企業のような組織、特に歴史が長く、規模が大きい組織は、日々のオペレーションを着実に回していく大多数のアリ型の社員で成り立っています。組織の現状維持を最大のミッションとするアリの価値観は、新しいイノベーションを生み出そうとするキリギリスの価値観とは根本的に相いれないのです。
ところが組織の中で話を進めようとすれば、当然ながら、多数派のアリを説得することが重要になります。これが今回取り上げるジレンマです。
キリギリス型思考vs.アリ型思考
キリ山くんが拠って立つキリギリス型の思考と、アリ田課長が拠って立つアリ型思考は、真逆と言っていいくらい価値観が異なり、これが冒頭の会話につながります。
「外向き」のキリギリスが見ているのは、顧客と競合です。新しい商品やサービスをいかに早く顧客に届けるか、そのために誰よりも先に市場に出せるか、この2つを実現するためのスピードがとにかく重要になります。
対するアリにとって、新しいことをやるうえで真っ先に浮かぶのは、「社内をどうやって説得するか」です。アリはアリの巣の中での立ち回り方をよく知っています。どこに根回しをすればいいか。複雑な巣の仕組みをいかに巧みに利用するか。そのために社内のアリたちにどう働きかければよいのか。これらが「内向き」のアリにとっての一大事です。アリを説得するのに必要なのは、以下に述べる理由により「過去の実績や有名な事例」なのです。
キリギリスとアリとでは、何をもって成功とするか、何をモチベーションに働いているかも大きく異なります。
夢想家のキリギリスにとっては、「いかに大ヒットを飛ばすか?」が重要です。そのためには多少の失敗も、ある一定の確率で起こりうることは初めから計画に織り込み済みです。
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