上司はなぜ「斬新なアイデア」を潰すのか? 責任回避、社内重視、悲観主義のメカニズム

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すでに確立されている組織の中で、イノベーションに挑戦しようとする「アリの巣の中のキリギリス」は、必ずこのようなジレンマに直面することになります。このジレンマを正面切って突破しようとしても、根本的に異なるアリの価値観に阻まれることは目に見えています。

では、キリギリスとしては、ジレンマを突破するために、どのような対策をとればいいのでしょうか?

まずは、ここまで説明してきたような自己矛盾の構図を、アリとキリギリスの双方で共有することです。根本的な判断基準が異なる状況でいくら議論しても、前に進むことはないでしょう。

キリ山くんとしては、アリ田課長との会話で、「他社事例があるってことは、その時点ですでに斬新なアイデア、イノベーティブな考えとは言えないことになりますよね」と、やんわりと言うしかない、ということでしょうか。

ただし、この自己矛盾の構図自体がアリに理解されることはあまりありません。その場合には、キリギリスは、基本的になんらかの手段で「アリの巣の外側」で勝負を仕掛けるのが得策です。

「アリの巣地獄」に落ちてはいけない

たとえば、直属の上司のラインがアリ型思考で固まっている場合、ここを突破するのは困難です。その場合には、ラインの外にいる人であってもキリギリス型思考の上の人を探して、そこをなんらかの突破口にするほうが、前進できる可能性は高まるのではないでしょうか?(これも組織で仕事をする以上、難しいとは思いますが、それ以上に何倍、何十倍も、アリの牙城を突破するのは難しいということです)

残念ながら、「アリの巣」である企業の中で昇進するのは、圧倒的に「アリ型思考」を極めた人たちですから、キリギリス型の経営幹部は少数派ですが、それでも大抵、一定の割合で存在しています。その人を味方につけてキリギリスが生きられる環境を作り上げる努力をするほうが、何倍も生産的な成果につながるでしょう。

これは自社内のみならず、顧客への提案においても同様です。「新しい提案をしてほしい」という顧客は多いと思いますが、途中で「他社事例を教えてほしい」と言われた場合には要注意です。

この後、ほぼ確実に「アリの巣地獄」に落ちていくことは目に見えていますから、この場合には顧客(の担当者)を変えて、別の提案先を探したほうが、説得ははるかに簡単になるのではないかと思います

細谷 功 ビジネスコンサルタント、著述家

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ほそや いさお / Isao Hosoya

1964年、神奈川県生まれ。東京大学工学部卒業後、東芝を経てアーンスト&ヤング・コンサルティング(クニエの前身)に入社。2009年よりクニエのマネージングディレクター、2012年より同社コンサルティングフェローとなる。問題解決や思考に関する講演やセミナーを国内外の大学や企業などに対して実施している。

著書に『地頭力を鍛える 問題解決に活かす「フェルミ推定」』、『アナロジー思考 「構造」と「関係性」を見抜く』『問題解決のジレンマ イグノランスマネジメント:無知の力』(以上、東洋経済新報社)などがある。

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