2016年中盤には「1ドル130円」を超える 通貨ストラテジストの村田雅志氏に聞く
しかし一方では、ドル円の上値を抑える材料も増えています。市場関係者の多くが指摘するのが黒田ラインの存在です。"黒田ライン"とは、日銀・黒田総裁が容認するドル円の上限は125円ちょうど近辺らしい、という市場の見方のことです。
黒田総裁が6月10日に衆議院で、「実質実効為替レートでは、かなり円安の水準になっている」と発言し、ここからさらに実質実効為替レートが円安に振れるということは「普通に考えればありそうにない」と述べたことに由来しています。
この黒田総裁の発言がなされる直前、ドル円は124円台半ばで堅調に推移し、125円に迫ろうとしていました。このため黒田総裁の発言は、ドル円が125円を超えることを避けるべく意図的になされたものとの解釈が市場関係者の間で共有されています。現に、黒田総裁の真意は定かではないものの、黒田総裁の発言以降、ドル円は125円を上回ったことがありません。
FRBは利上げを先送りしない
日本の経常収支が改善傾向にあることも円を買い戻す動きにつながりやすい材料です。日本の経常収支は、東日本大震災を機に悪化し、2013年10月から2014年1月の4カ月間、経常収支は赤字を記録していました。しかし、その後は所得収支黒字が拡大したことで経常収支の悪化が一服しました。2014年後半からは原油価格が下落したことで、輸入額が減少基調で推移し、経常収支は再び黒字基調となっています。
すでにドルは大きく上昇しており、これ以上のドル高は米国景気を下押しするため、FRBによる利上げ開始は当面、見送られる、という見方もあります。
FRBが公表するドルの実質実効レートは今年7月時点で95.5と2009年3月以来の高水準にまで上昇しています。ドル高は米国景気の下押し要因となるだけでなく、インフレ圧力も抑制します。米国のインフレはFRBが目標とする2%を大きく下回り、今年に入ってからは原油価格の下落もあって1%台前半で推移しています。ドル高による悪影響を見極めるべく、FRBは利上げ開始をできるだけ遅らせようとする、という見方はもっともらしく聞こえます。