このように、ストーリーテリングは人々の間の垣根を取り払い、理解を深めるだけではなく、個人の人間的な成長や、社会問題の解決、さらには経済的なメリットに直接的に結びつく。アメリカでは、まさにこうしたストーリーテリングの無限大のポテンシャルに誰もが夢中だが、特に、最近、熱い注目を注いでいるのがビジネス界だ。
GE、マイクロソフト、スターバックス、インテル、ウォルマートなどアメリカの大企業は最近、PR活動の一環として、こぞって自らがメディアとなってニュースを発信する「ブランドジャーナリズム」に熱心に取り組んでいるが、そうしたサイトを見ると、ストーリーのオンパレードだ。マイクロソフトのブランドジャーナリズムサイトの名前はその名もずばり、Microsoft Stories。
マイクロソフトの社員やプロジェクトに参画するなどして関わる様々な人々のパーソナルなストーリーを、記事形式で紹介している。難病と闘う社員や陰でマイクロソフトを支える裏方エンジニアなど、普段、スポットライトがあたらない一般の人々のストーリーを通じて、マイクロソフトの企業市民としての顔をアピールしていこうというわけだ。
「犬も歩けばストーリーにあたる」アメリカのビジネス業界で、ストーリーテリングは、個々のビジネスマンの必須スキルにもなりつつある。ストーリーテリングのワークショップは企業内の研修メニューとしても大人気で、MOTHのドーンさんも企業研修に駆け回っている。
グーグルもそんな企業の一つ。ドーンさんも、無料のカフェテリアの食事や活気あふれる雰囲気を楽しみながら、数日間のストーリーテリング研修の講師役を務めたという。
意識高い系のストーリーがつまらない理由
実際に、どのようにストーリーテリングが教えられているのか。グーグルの研修でも教えたドーンさんのセミナーに筆者も参加して、その極意を学んだが、濃厚な内容はたっぷりお伝えしたいので、次回に回す。今回は最後に、ストーリーテリングに強い関心を持っている"意識高い系"の若者向けに、多くの日本人のストーリーテリングをつまらなくしている大きな間違いや誤解ポイントを3つ、黄金律としてご紹介したい。
① 要約か情景描写か。
日本人のよくやってしまう間違いの一つが、事実やデータをただひたすら並べて終わる話し方。「入社して、営業部に配属になり、その後、総務部で勤務、昨年、広報部に移りました。その間、様々な事業を経験し…」といったような感じだ。「僕が学生時代にやったことはこんな感じです」「僕の会社人生をかいつまんで言うとこんな感じです」といった要約パターンが非常に多い。
抽象的で、“じっぱひとからげ”的な語り方は、聞き手の心に何のイメージを残さない。よいストーリーは、聞き手の心のキャンバスに絵が書き込まれるかのような、ビビッドな情景描写で成り立っている。無味乾燥の事実の羅列、要約版ストーリーでは人は全く引き込まれない。
② 情報かドラマか。
ストーリーテリングはドラマ。つまりはワクワク、ドキドキといったスリリングな展開が醍醐味だ。次は何が起きるのかというはらはら感が聞き手を引き込み、飽きさせない。
一方で、日本人のストーリーは、たいていの場合、聞き手にそういった感情を一切喚起させない「情報」中心の話であることが多い。単調で、喜怒哀楽のない話では人々の共感を集めることは難しい。いかに情感たっぷりの言葉を盛り込み、「情報」を「ドラマ」に昇華できるか、にストーリーの成否はかかってくる。
③ 成功を語るのか、失敗を語るのか。
「説教・昔話・自慢話はするな」。最近、ネット上でタレントの高田純次さんの“金言”が話題になった。多くの日本人が語るストーリーが面白くない元凶、それが、まさに高田さんの言うように自分の話したいことだけを垂れ流す「ナルシスト系弾き語り」ストーリーだ。
「人は成功には共感しない。人は失敗に共感する」もの。誰かの失敗する姿は「ああ、自分も」と自分事化できるのに対し、成功は「しょせん他人の話」と他人事化してしまう。自分に酔いしれ、悦に入ってしまうそんなストーリーを話してしまったことはないだろうか。ストーリーの基本は「困難や挫折をどう乗り越えたか」。勝ちパターンは「失敗を語ること」なのだ。
・・・ということで、次回はいよいよ、グーグルでも教えられているストーリーテリングの極意をご紹介します!
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