異様なほどギリシャに肩入れする、IMFの真意 誰も語らない、ギリシャ危機の「核心」

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そこには単純明快な理由がある。しかも、情けないことに、その理由とは煎じ詰めれば自己保身の一語に尽きる。官僚が自己保身に腐心するのは万国共通の現象であって、残念ながら、世界中から選りすぐった優秀な人材をかき集めているはずのIMFや世界銀行のような国際協調金融機関の官僚においても、まったく同じことなのだ。

ギリシャの後は、アイルランドが危機に陥る!?

IMFの短期融資・緊急融資には、融資の実行から3.25~5.00年のうちに全額回収できる見込みの立たない融資をしてはいけないという運用規則がある。一方、現実には「IMFが融資を渋ったために、特定の国が財政破綻した」というような責任を問われるのもイヤだ。だから、IMFの官僚たちは短期融資・緊急融資をするときには、必ず「融資対象国は、これこれしかじかの年率で経済成長を続けるので、ちゃんと5年後には借りたカネを完済するだけの資金を確保しているはずだ」という作文を書く。

この作文修練のたまものが、ギリシャは向こう6年間で年率2.5%のGDP成長を達成するというすばらしい回復予測なのだ。「しかし、そんなに荒唐無稽の予測をしても、現実には期限までに債務が完済されるはずがないから、すぐにウソだとばれてしまうだろう。賢い官僚たちがそこまで愚鈍な行動に出るはずがない」とお思いの方が多いだろう。

それは、大変な買い被りだ。官僚は自己保身のためなら、平然とそういう行動に出るのだ。そして、実際に完済されなかったときには、経過金利を上乗せした借り換えのための融資をしてやる。「そのために必要な経済成長は、ちゃんと達成できる」という新しい作文を添えて。

これが、ギリシャという国がこんなに高いGDP成長を持続できると予測されているほとんど唯一の根拠なのだ。

逆に、何とか返済資金を工面して期限どおりにIMF融資を完済したスペインには追い貸しをする必要がない。だから、「今後のGDP成長率は1.7%と推定されるが、国家債務の対GDP比率を削減するには3.8%ポイントも高い5.5%成長が必要だ」という、正直でおそらくは的確でもある予測が出されているのだろう。

もちろん、借り手としての当事者であるギリシャ国民にも、返すべき借り入れを期限内に返済できなかったという責任はある。だが、かなり非現実的な高成長予測をつくって貸しこんできたIMF官僚側にも、少なくともギリシャ国民と同等の責任を問うべきだろう。

こうして見てくると、国際金融危機に際してのIMF融資を一応期限内に完済したアイルランドが、「一層の国家債務削減には3.0%成長が必要だが、今後6年間はそれだけの成長率を維持できる」と予想されているのは、かえって不気味な感じがする。

IMF首脳陣は、アイルランド経済がもう一度失速して融資を申請する可能性が高いことを知っていて、そのための必要条件は満たされているという予防線を張っているのではないだろうか。

増田 悦佐 ジパング・シニアアナリスト

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ますだ えつすけ

1949年東京都生まれ。一橋大学大学院経済学研究科修了後、ジョンズ・ホプキンス大学大学院で歴史学・経済学の博士課程を修了。ニューヨーク州立大学助教授を経て、外資系証券会社で建設・住宅・不動産担当アナリストをつとめ、現在は株式会社ジパング経営戦略本部シニアアナリスト。

評論家としても知られ、証券アナリストの視点からの経済評論のほか、日本文明と欧米文明の比較を主題とした評論にも力を入れている。近著に『城壁なき都市文明 日本の世紀が始まる』(エヌティティ出版)、『3・11に勝つ日本経済』(PHP研究所)、『戦争とインフレが終わり激変する世界経済と日本』(徳間書店)、『危機と金(ゴールド)』などがある。
 

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