異様なほどギリシャに肩入れする、IMFの真意 誰も語らない、ギリシャ危機の「核心」

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ギリシャ経済の公共部門依存度の高さは、下段のグラフにもはっきり表れている。2006年の時点ですでに、GDPの44.6%とかなり高めだった。しかし、2008~09年の国際金融危機以降は公共部門依存度がさらに高まって50%を割ることがなくなり、このデータでは最新の2014年1月時点ではGDPの6割近い水準となっている。

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要するに、ギリシャ政府から実際に財政赤字を削減しようとする意図は、ほとんど感じられない。当然のことながら、いつ破綻してもおかしくない国に経営基盤を置いているギリシャの民間銀行からは預金が大量に流出し、ますます民間部門全体を委縮させるという悪循環が起きていた。

ギリシャ政府は、銀行預金を始めとする資金の国境を超えたやりとりを禁止し、個人預金者が1日に引き出せる預金額に厳しい上限枠を設定するなどの資本移動制限を実施した。

これで、一応ギリシャからの資金の流出には歯止めがかかった。だが、国全体で資金の循環がやせ細り、農民同士がカネを使わず物々交換で農産物をやり取りするというような事態も起きている。地域経済の委縮も深刻で、資本移動制限の実施前と直近の数値を比べると、小売業売上高は首都アテネ市内でも約40%、テッサロニキ、ピレウスといった比較的規模の大きな都市圏でも60%、観光名所であるロードス島では60~70%というすさまじい減少を記録している。

EUが抱える根本的欠陥

ギリシャは国内に製薬会社が1社もなく、薬品は全面的に輸入に頼っているというお国柄だ。それなのに、海外の製薬会社が現金と引き換えでなければ薬品を売ってくれず、糖尿病患者にとっては文字どおり生命線であるインシュリンのストックが1~2週間のうちに底をつきそうだというような悲惨な話も報道されている。

さらに、きちんとした資格を持った医師や看護師の間で国外に移住する人が激増し、例年1年で約550名の医師が海外での仕事に就いていたものが、今年は上半期だけで790名の医師が海外移住のための資格証明の発行を申請したという。

マラソン折衝の土壇場で、一応、ギリシャ政府とEU首脳陣の間に妥協が成立し、8月に欧州中央銀行(ECB)への返済が予定されている32億ユーロの資金繰りはできるようだ。だが、ECBだけではなく、EU委員会、IMFへの巨額債務の返済期限が迫るたびに、なんとか借り換えによって資金を調達しなければならないという窮状は、まったく改善していない。

事態がここまで切迫してしまった原因の一端は、EUやユーロ圏が(主権国家ではないながらも特定の財政・金融政策を推進しようとしている点では)単なる友好団体でもないという機構的な中途半端性にある。とくに、「いったん参加した諸国については、当事国が自発的に脱退しないかぎり、いつまでも居座りつづけることができる」という現行の枠組みは、自国の放漫財政のツケを加盟諸国に回すという行動様式を許してしまっている。

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