「出直し」の新国立競技場、責任者は誰なのか 整備計画を練り直す前にやるべきことがある
そもそも新国立競技場の「コンペ」なるものが、設計者を選ぶのではなく、設計監修者を選ぶ(具体的な設計者や建築会社は別に決まっている)という、過去にほとんど例のない方式で進行したことが異常、と指摘する建築家も多い。
通常なら、設計者は現地に事務所を設け、建造物の完成まで見守るものだが、ザハ氏は事務所を東京に置くこともなく、監修業務料を受け取っただけだ。
ほかにも、神宮外苑という東京の都心部で、長さ370メートルの橋を架けるに等しい建設作業など不可能、という声もあった。川や海での橋梁建設であれば、材料の運搬やクレーンの設置に船が使えるが、市街地では無理。
そこでバカ高い建設費を予算計上すれば、建設中止の判断が下るのではないかとの思惑から、2520億円という見積額を提示したところ、有識者会議でゴーサインが出たため、建設会社のほうが焦った、と漏らす建築関係者もいる。
逃げを打つ人たち
東京五輪パラリンピック組織委員会の森喜朗会長は「どこに責任があるかは難しい問題」と語る。安倍首相も「誰の責任か申し上げるつもりはない」と述べるにとどめている。が、これほどの税金の無駄遣いを、あいまいな言葉で終わらせていいはずがない。
下村博文文部科学相は外部有識者による検証委員会を設け、JSCや担当部局などから白紙撤回に至った経緯を調査し、9月中旬に中間報告を出すと発表した。
しかし、これだけ莫大な実害を生じさせながら、誰一人として責任を負おうとしていない。担当部局であるスポーツ・青少年局の久保公人局長が8月4日付で辞職すると発表されたが、これは事実上の更迭人事であり、“トカゲの尻尾切り”ともいわれている。
JSCを所管する文科省の最高責任者である下村文科相はもちろん、事業主体であるJSCの河野一郎理事長も、不可解なコンペの審査委員長を務めた安藤忠雄氏も、有識者会議の一人として2520億円の建設費にゴーサインを出した森会長も、今回の新国立競技場建設にかかわった人々は、森会長自身が口にしたとおり、責任を「全体で負わなきゃならない」はず。
新しく練り直す新国立競技場の建設計画は、遠藤利明五輪相が責任者となって進められるという。ならば、まず失態を演じた責任者をすべて排除したうえで、アスリートの声を集めた方針を明確にし、建設に着手してほしいものだ。新国立競技場は、奇抜なデザインを競う建造物でもなければ、コンサート会場でもない。アスリートたちがスポーツをする場所なのだから。
(「週刊東洋経済」2015年8月8-15日号<3日発売>「核心リポート01」を転載)
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