「世界から遅れている」日本の新薬開発3つの問題 コロナワクチンでも露呈、解決には何が必要か?

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対して、近年のAI創薬は、AIに膨大なデータを学習させることで、仮説-実証の工程が大幅に省略されるため、創薬スピードが劇的に加速した。また、ヒトによる思い込みや先入観がなくなったことで、スピードだけでなく精度も格段に上がった。

伊藤眞里氏(写真:本人提供)

ただ、「従来の創薬でも海外に差をつけられている日本ですが、AI創薬でも後れを取っています」と伊藤氏はいくつかの理由を挙げる。

その1つは、創薬の研究開発に十分な資金が投じられていない点が挙げられる。

創薬に対する研究費・予算が日本と海外では大きく異なる。例えば、武田薬品工業の2023年度の研究開発費は7299億円。一方、ファイザーは106.79億ドル(約1兆6417億円※1ドル153.735円で計算) だ。

2023年度の研究開発費では業界トップのメルクの305.31億ドル(約4兆6937億円)を筆頭に、ロシュ、ジョンソン・エンド・ジョンソン、ノバルティス、アストラゼネカ……など、世界のメガファーマは100億ドル以上を研究開発費に使っている(各メーカーの費用は報告書より抜粋)。

「パンデミックの際も、国がどう捉えるかの違いもありますが、アメリカでは防衛費がワクチンの生産に充てられました」と伊藤氏は言う。

医療情報が活用できない日本

2番目は、患者の医療情報が海外のように活用できない点である。

海外では個人情報保護法に基づき、患者の医療情報が国によって管理されている。欧州は、EUでまとまった1つのプラットフォームを作っていて、製薬企業がこれらの情報にアクセスできるようになっているのだ。

日本は、国民皆保険制度があるため、良質で詳細な医療データが蓄積されている。患者情報が電子カルテによって整理され、活用しやすくもなってきた。しかしながら、現段階では創薬への二次利用ができない。

「世界トップクラスのビッグデータになりうる可能性を秘めているにもかかわらず、製薬企業がそれらの情報を創薬に活用できないのは、大きな損失です」と、伊藤氏は指摘する。

そして3番目は、基礎研究にとどまり、実用化までに時間がかかる点だ。

基礎研究ではキラリと光る高い技術を持っているものの、日本はその技術を市場に出回る製品やサービスに実用化させられるベンチャーを育てることが得意とはいえない。これがAI創薬の足かせとなっているというのだ。

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