「世界から遅れている」日本の新薬開発3つの問題 コロナワクチンでも露呈、解決には何が必要か?

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伊藤氏の専門は「システム生物学」だ。

バーチャルで再現した人体に、薬剤の分子を加えることで、どんな反応が起こるかを予測する学問で、AI創薬では欠かせない分野の1つ。将来的にバーチャルな人体による臨床試験ができるようになれば、薬の効果が期待できる患者を厳選して薬を使うことも可能になる。

「これまでの臨床試験は、年齢や基礎疾患の有無、飲酒や喫煙歴など、さまざまな条件を持つ人に、薬の候補を投与して、その効果を確認してきましたが、システム生物学を使えば、それが避けられます。患者さんに効かない薬を投与するというデメリットをなくすことにもつながります」と伊藤氏。

現在、伊藤氏は厚労省とともに、国が難病指定している特発性間質性肺炎、なかでも特発性肺線維症の治療薬の開発に関わっている。

特発性肺線維症は肺炎の一種だが、病態が複雑で原因が特定できないため、今のところ有効な治療薬がない。そのため、AI創薬のプロジェクトとしてこの病が選ばれたという。

「臨床データを収集するところから取り組んできましたが、特発性肺線維症という難病に対して構築してきたものは、ほかの多くの難病にも展開できると期待しています」(伊藤氏)

AI創薬がもたらす5つのメリット

最後に、AI創薬が今後、私たちにどんなメリットをもたらすのか見ていきたい。

1つ目は、伊藤氏が取り組む上述の特発性肺線維症のように、治療法が確立していない難病や希少疾患などに光が当たるようになったこと。

2つ目は、薬が患者の元に届くまでの時間の短縮化だ。膨大な量のデータを短時間で処理し、治療効果のある化合物を見つけられるAIなら、創薬までの過程を大幅に省略することができる。

3つ目は、低コスト化である。

時間の短縮化、創薬のプロセスの省略は、そのまま低コスト化にも貢献する。低コストで創薬できれば、患者自身の負担軽減はもちろん、医療費の削減につながり、国民全体の負担を軽くすることにもつながる。年々高額な薬が登場し、医療費の増大をもたらすなか、AI創薬におけるコストカットは大きなメリットだろう。

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