日経傘下入りで気になる「FTの強み」の行方 孤高の勝ち組経済メディアの強みとは?
相当の富裕層、高額所得層が読者という印象を持たれるかもしれないが、実は間口は意外と広い。
例えば、会社が法人契約をしていれば従業員は紙あるいは電子版でアクセスが可能になる。また、電子版のみを年間購読すると270ポンドで、月割りにすると22.5ポンド(4500円)。この金額は日本の新聞の月極講読料と同程度になり、中程度の所得者にも手が届く存在となる。電子版の年間講読料はここ数年、据え置きとなっている。富裕層に入らない読者を取り込む策の一つのようだ。
電子版の読者の方が紙の読者より多い強み
購読部数は約73万部。約70%が電子版で、紙版の部数は約22万部だ。「22万部」と聞くと、いかにも小さいように思えるが、ウィキリークスやスノーデン・ファイルなど、近年、国際的なスクープを立て続けに出したガーディアンでも紙版は18万部前後。高級紙の中でもっとも部数が多いデイリー・テレグラフでも40万部ぐらい。ただし、ゴシップ記事などが満載の大衆紙は200万部近くを売っている。
電子版が紙版の2倍以上になっていることもFTの強みだ。紙版の部数が減ることは、それほど痛くない。電子版オンリーになっても生きていけるように、時間をかけて準備してきたのだ。
こうした読者は英国よりも米国を含めた海外に広がっている。FTの読者は、グローバル、富裕層、金融関係者、一般的に知的情報を求める人になる。国際的な視野を持つ、知的に深みのある情報に触れたい読者がいて、それに応える形でFTが存在している。
FTの財産は、何といっても、そのブランド力だ。あるメディアが実績を積み重ね、読者の信頼を得て、ファンを作る、つまりお金を払ってもいいと思えるまでになるには、相当の努力と時間が必要だ。FTはこれを127年をかけて築き上げてきた。
日経は単に1つの新聞を買ったわけではない。国際的に信頼され、ファンがついている、特定の新聞を読者層とともに手中にしたことになる。買収金額の8億4400万ポンド(約1600億円)が高すぎたのではないかという報道を一部で見たが、ブランド力(のれん代)は一朝一夕で築けるものではない。ブランド力の評価次第で、高く感じる人もいれば安く感じる人もいる、というだけのことだ。
しかも、そのブランドにあぐらをかいているわけではなく、FTは新しい時代への取り組みでも先行している。
将来のデジタル・オンリーの世界に備えるため、FTは電子版購読者拡大に力を入れてきた。その手法として、まずは巧みなメーター制の採用があった。当初は名前を登録してもらい、月に30本を無料とし、それ以上読みたい場合は有料にした。そのあと、10本から数本に落とすなど、適宜変更している。
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