脱炭素への競争、日本企業の戦い方は正しいのか 次世代技術の確立を待たず、今できる対策を

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また、国内の再生可能エネルギーの導入が拡大することで、企業は事業活動において容易に安価な再生可能エネルギーを利用できるようになる。特に浮体式洋上風力の量産体制が構築され、大規模に導入されれば、発電コストを低廉に抑えることができるようになる。

電力の安定供給を、電気自動車や蓄電池などの分散したリソースを動員して実現できるようになれば、需要と供給をバランスさせるためのコストも安価になる。燃料価格の高騰に左右されず、より安定した価格でエネルギーを調達することができるようになる。

再エネシフトで海外への資金流出にも歯止め

さらに、エネルギー自給率の向上によって、海外への資金流出が抑えられ、国内で資金が循環するようになる。また、国際情勢の変化に対する耐性が強く、自然災害にも強いレジリエントな社会が構築できるようになる。

その場合の再生可能エネルギーを中心としたクリーン電力供給及び水素供給設備に対する投資規模は、2021~2050年の平均で、3.9兆円/年~4.6兆円/年となり、現在の年間の化石燃料輸入額(20兆円/年~30兆円/年)を大幅に下回る。

深い海に囲まれ、平地が限られた日本固有の国土事情を逆手に取り、浮体式洋上風力やペロブスカイト太陽電池などの導入を国内から積極的に進めていくことで、これらの技術に強みを有する日本企業の成長を促し、世界市場で優位に立つことも十分に想定される。

もちろん、この戦略にもリスクはある。変革は計画した通りに進まないのが世の常であり、予期せぬ事態に直面することも十分に想定される。

しばらくは現状を維持して次世代技術の完成を待つか、それとも、今入手可能な技術を活用して果敢にビジネスや社会経済の変革に着手するのか。

気温上昇を1.5度以内に抑制するためにわずかに残されたカーボンバジェットの規模を考えると、即時的かつ大幅な排出削減が必要であり、そのためには社会経済の多方面で変革が必要となる。

その変革の中にある機会をつかむことで、日本の多くの企業は国際競争力を向上させていくことができる可能性は高い。今こそ、恐れずに変革を実行すべき時ではないだろうか。

後編では、変革を実現しうる企業や国にとっての戦略的アプローチについて紹介する。

田村 堅太郎 公益財団法人地球環境戦略研究機関(IGES)上席研究員

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たむら けんたろう / Kentaro Tamura

公益財団法人地球環境戦略研究機関 気候変動とエネルギー領域プログラムディレクター/上席研究員。ロンドン大学経済政治学院(LSE)大学院博士号(国際関係論)取得。横浜国立大学エコテクノロジー・システム・ラボラトリー講師を経て、2003年に地球環境戦略研究機関(IGES)に入所。研究テーマは、気候変動政策の国際協力、主要国における政策決定プロセスの比較分析および低炭素技術の国際的な技術移転・普及。

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田中 勇伍 公益財団法人地球環境戦略研究機関 関西研究センター リサーチマネージャー

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たなか ゆうご / Yugo Tanaka

公益財団法人地球環境戦略研究機関 関西研究センター リサーチマネージャー。京都大学大学院総合生存学館博士一貫課程修了。博士(総合学術)。 電源開発株式会社(J-POWER)にて原子力発電所立地業務と経営企画業務に、国際エネルギー機関(IEA)にて再生可能エネルギーの電力系統統合に係る分析業務等に従事したのち、現職。地域共生型の再生可能エネルギー、地域循環共生圏の構築、ステークホルダーの参加による分野横断的な脱炭素ビジョンづくり、などをキーワードに研究・実践の両面から活動を展開中。専門はエネルギーシステムと公共政策。2020年より現在まで神戸大学法学研究科非常勤講師として脱炭素社会に係る講義を担当。

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