脱炭素への競争、日本企業の戦い方は正しいのか 次世代技術の確立を待たず、今できる対策を

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こうした確かな科学的知見を元に将来を見通せば、企業を取り巻く事業環境は、比較的短い時間軸で大きく変化していくことが避けられない。そうであれば、その変化の中で生き残り、企業価値を高めていけるように、企業自身もいち早く変化に向けた行動を起こそうとするのが合理的であろう。

また、政府もこうした企業や産業の変化を促し、変革に成功した企業が競争力を高められるような市場環境を整備していかなければならない。

このように、温室効果ガス排出の削減を制約条件として新たな経済社会を創り上げていくなかで成長を目指す、いわば「変革のレース」の勝者を目指した競争が、現在世界で起こっていることなのではないだろうか。

終盤での一発逆転に賭ける日本企業

一方、日本では、気候変動対策の強化は産業界にとっての追加の負担になるとの認識がいまだに根強い。逆に、対策を強化しないことによるリスクについては、ほとんど議論が行われていない。

さらに、政府が掲げるカーボンニュートラルに向けた道筋は、主に対策が難しいとされるエネルギー多消費産業を中心に、セクター別に整理が行われているのが特徴だ。そこでは、基本的に将来の産業構造や各セクターのサプライチェーンの構造が現在と大きく変わらないとの想定の下、特に新たな技術開発に公的資金を投じる形で脱炭素化を進めていくことになっている。

たとえば、製鉄業で粗鋼生産に使用される高炉のCO2排出量を削減する革新的な技術開発や、内燃機関自動車が消費するガソリンなどを代替する新燃料の開発、火力発電所が消費する石炭や天然ガスなどを部分的に代替する、水素やアンモニアといった新燃料の開発などである。

これらは早期の排出削減にはつながらないうえに、コストや実現性が疑問視されるものも多い。こうした考え方では、足元の排出削減目標の引き上げに及び腰になってしまうのは、むしろ自然であるとも言える。

このような姿勢で大丈夫なのだろうか。

第4次産業革命とも呼ばれる社会経済構造の大きな変革の潮流のただ中で、地球の持続可能性に貢献するビジネスへと転換することを前提に、世界中の企業がレースの覇権を狙って果敢な行動に出ようとし、各国政府はこのゲームのルールを自国にとって有利なものに書き換えようとする。

そのような中、日本は従来の産業のあり方を当然に維持しようとし、将来手に入る新たな技術に期待して、戦いの序盤である2030年前後までの勝負どころでの勝利は放棄し、2050年に近い最終局面で巻き返す戦略を取ろうとしている、とも捉えられる。

さて、果たしてこの「変革のレース」の戦い方は、それで正しいのだろうか。

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