乗客増えた?北総線「運賃大幅値下げ」のその後 経営トップが明かした戦略、狙いは当たったか

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普通券も値下げ前後で19.7%増えた。運賃区界別に見ると最も増えたのが12〜14kmという中距離帯の区間で30.0%増。この区間は値下げ幅が最も高く、値下げによって域内移動を促すという狙いがぴたり当たった。

「中距離帯の運賃を下げることで、千葉ニュータウンに住む人たちが、わざわざ都心まで出なくても、例えば大型のショッピングモールがある新鎌ヶ谷で買い物や食事をしようと考えてくれたようだ」

問題は収入である。値下げ後1年間の収入を前年同期と比較すると旅客運輸収入全体は106.4億円から101.9億円へと4.2%減った。値下げしたのだから当然といえば当然だが、運賃の平均値下げ率15.4%と比べれば、小幅にとどまっている。

旅客収入は4.2%減少したがその減少率は運賃値下げ率15.4%よりも小幅にとどまる(画像:北総鉄道)

「運輸収入を券種ごとに分析すると、普通券は利用者増による増収が値下げによる減収を上回り、トータルで1.8億円の増収になっている。これは明らかに値下げによって利用者が誘発されたことを意味している」

室谷氏は「路線の特性や沿線の事情にもよるが、値下げは収入面ではマイナスにしかならないわけではないことが証明された」と話す。

利用者減少による経営悪化という悩みを抱える地方の鉄道会社は数多い。一般的には値上げで収支改善を図るのだろうが、値下げによる誘発効果で収入を増やせるという事例ができた。今後の参考事例になりそうだ。

普通券は値下げによる利用誘発効果が減収を上回っている(画像:北総鉄道)

通勤定期の値下げも?

運賃値下げを見届けた室谷氏は2023年6月、社長を辞任し会長職についた。今後については「安全運行を大前提に運賃やダイヤなどさらに鉄道サービスの使い勝手の良さを追求していきたい」とするほか、駅前や高架下の再開発を行うことで「沿線にプラスアルファの価値を提供したい」とも話す。

北総鉄道の車両は都営地下鉄や京急の路線を通じて、品川や羽田空港にも乗り入れる。同社は運賃値下げを契機に、沿線6市と千葉県が1編成すべてにオリジナル広告を掲出して、沿線の魅力をPRする「沿線活性化トレイン」というラッピング列車を走らせている。今年も7月31日から来年1月末まで運行する予定だ。

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2023年度の「沿線活性化トレイン」(写真:Nozomi/PIXTA)

「羽田空港を利用する人は関東一円の人ですよ。その人たちが北総鉄道の車両に乗って沿線のPR広告を見る。沿線自治体も都市間競争を勝ち抜いていかなくてはいけない。これまでは沿線のみなさまから運賃を下げろと言われ続けてきたが、これからは共に北総エリアのブランディング化や活性化に取り組んでいくことで、沿線の皆さんとは本来の関係であるウィンウィンの関係をより強固なものにしていきたい」

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大坂 直樹 東洋経済 記者

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おおさか なおき / Naoki Osaka

1963年函館生まれ埼玉育ち。早稲田大学政治経済学部政治学科卒。生命保険会社の国際部やブリュッセル駐在の後、2000年東洋経済新報社入社。週刊東洋経済副編集長、会社四季報副編集長を経て東洋経済オンライン「鉄道最前線」を立ち上げる。製造業から小売業まで幅広い取材経験を基に現在は鉄道業界の記事を積極的に執筆。JR全線完乗。日本証券アナリスト協会検定会員。国際公認投資アナリスト。東京五輪・パラにボランティア参加。プレスチームの一員として国内外の報道対応に奔走したのは貴重な経験。

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