乗客増えた?北総線「運賃大幅値下げ」のその後 経営トップが明かした戦略、狙いは当たったか

著者フォロー
ブックマーク

記事をマイページに保存
できます。
無料会員登録はこちら
はこちら

印刷ページの表示はログインが必要です。

無料会員登録はこちら

はこちら

縮小

長年、北総鉄道は「運賃が高すぎる」ことで悪名を轟かせていた。距離あたりの運賃は京成本線と比べても2倍近くの隔たりがあり、利用客から連日のように「何とかしろ」と突き上げをくらっていた。

一方で、北総鉄道は莫大な累積損失という悩みも抱えていた。新規区間の開業に合わせて累積損失が膨らみ、2000年度の累積損失は450億円近くに達していた。この年度にようやく単年度で黒字化したため累積損失は減り始めたが、2018年度でも100億円近くの累積損失が残っていた。

運賃はなぜ高いのか。なぜ累積損失が多いのか。この2点の理由は共通している。輸送人員が当初の見込みほど増えなかったためだ。

千葉ニュータウンの計画人口はもともと34万人だったが、用地買収の難航などで事業が停滞し、2024年3月時点でも人口はようやく10万人を超えた程度にすぎない。これが利用者の伸び悩みに直結しており、収支が赤字の期間が長引き累積損失も増え続けたのだ。想定より少ない収入を少しでも補うため、大きなものだけでも8回もの運賃値上げが行われた。

「運賃値下げ」どう決めたのか

京成電鉄の鉄道本部長を兼務していた室谷氏にしてみれば、北総鉄道では「心苦しいがどうしようもありません」と開き直ってやり過ごすという選択肢もあった。しかし、そうはしなかった。当時の利益水準から判断して、2022年度末には累積損失を解消できる見通しが立ったからだ。

「本来だったら2022年度に累積損失が解消するなら、それを見届けて2023年度から値下げの検討を始めてもよかったが、運賃値下げをやるなら早いほうがいい」

北総鉄道会長 室谷氏 略歴
室谷正裕(むろや・まさひろ)北総鉄道会長⚫︎1956年生まれ、1979年運輸省入省、2013年国土交通省運輸安全委員会事務局長、2014年日本民営鉄道協会常務理事、2017年京成電鉄常務取締役、2018年北総鉄道社長などを経て、2023年から現職(記者撮影)

2022年度は北総鉄道の創立50周年に当たるということも「内心で意識していた」と言い、2018年頃から値下げの検討に着手した。

担当部署は企画室でスタッフは3人。「みなさんよく働いてくれました」と明るく語る室谷氏だが、自身も「1日30時間くらい働いている感じ。京成の本部長24時間、北総の社長6時間といったところでしょうか」と、すさまじい毎日だったと振り返る。

2020年に入って新型コロナウイルスの感染拡大により鉄道利用が大きく落ち込んだ。また、労働力不足、燃料高などによる費用増もあり、鉄道業界では運賃値上げの機運が高まっていた。しかし、値下げという室谷氏の考えが揺らぐことはなかった。

こうして、北総鉄道は2022年10月、運賃値下げに踏み切った。

「いくらのまでの減収なら会社として耐えられるか。何度も何度も値下げ後の収支のシミュレーションを繰り返し、目一杯インパクトのある値下げにしたいと考えた」

関連記事
トピックボードAD
鉄道最前線の人気記事