そのうえで、何気なくX(旧Twitter)を眺めていたところ、あるリフレ派のアカウントが、円安でも国内回帰による設備投資の状況が顕在化しないことについて、一部の「専門家」が言い出した「悪い円安」論が阻害している、と批判していた(およびそれを報じるメディア、支持する世論、政府、日銀も含めて全方位的に批判していた)。
「患者の体質が悪いから手術しても治らない」?
まず、筆者の認識では「悪い円安」論は、何かそちらの方向に持っていきたい(リフレ派の好きな言葉で言えば、期待に働きかける)という目的で議論されてきたわけではない。
実際に消費マインドが大幅に悪化し、悪影響が目立った。そのうえで、製造業の生産拠点の状況などから円安による輸出の増加(Jカーブ効果)が出にくいことは、前述の議論の通り予想されたので、自然発生的に「悪い円安」論が出てきた。
それを批判するということは、各主体は現実を直視せずに都合のいいプロパガンダに徹すべきであるということであり、それは正しい姿ではないだろう。
5月21日に行われた日銀「多角的レビュー」のワークショップでは、東京大学名誉教授の吉川洋氏が「荒療治かもしれないが外科手術をすれば治るということで、手術した。一定の効果はあったが治らなかった。理由は『患者の体質が悪いから』。こういう説明は患者にアクセプト(容認)されるのだろうか」と述べたという(『日本経済新聞』)。
前述の「悪い円安」論への批判は、「円安になれば経済は良くなるはずだが、専門家・メディア・世論・政治・日銀が悪いから良くならない」と言っているようなものであり、アクセプトされるものではないだろう。
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