子供の脳が萎縮する、危険な「触れ合い不足」 ノーベル賞学者が教える成育環境の重要性

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個々の孤児院の質的状況や、里親家庭の環境、孤児院にいた期間などによって差はあったものの、おしなべて養子になるのが遅いほど回復が進まなかった。ルーマニアの事例に関する研究は、ほかの状況から得られる理解に合致する。すなわち、幼少期に深刻なネグレクトに遭った子供は、認知や情動や健康に長期的な問題を抱えることが多い。

子供たちが問題を抱えた一因は、幼少期の親密な触れ合いが脳の機能をつかさどる重要な部分の発達に関連していることにある。親密な触れ合い体験が欠落したことによって、脳の発達に異常が生じるのだ。ネグレクトされて育った3歳児をそうでない子供と比較したところ、脳のサイズが小さく、脳室が肥大し、大脳皮質の組織が委縮していることなどがわかった。

つまり、幼少期の環境は重要であり、子供には注意を払うことが必要だ。だが、こうした幼少期の逆境的体験はどのようにして違いをもたらすのだろうか? 多くの社会科学者が家庭状況を測るのに使用してきた物差しは、両親がそろっているか否かと世帯所得だ。

子供の語彙数は親の語彙数に比例する

だが、発達心理学や神経科学の研究から得られる証拠は、これらの物差しは子供がどのように育つかを決定するための、ひどく大ざっぱな目安にしかならないことを示している。両親がそろっていることに利益があるとする意見は多いものの、父親に反社会的傾向があったり、結婚生活が破綻したりしていれば、父親の存在はかえってマイナス要因になりうる。

子供の不利益を決定する主要な原因は、単なる経済状況や両親の有無よりも、成育環境の質であることを示す証拠はたくさんある。たとえば、ベティ・ハートとトッド・リスレーは1995年に42の家族を対象にした研究で、専門職の家庭で育つ子供は平均して1時間に2153語の言葉を耳にするが、労働者の家庭では1251語、生活保護受給世帯では616語だとした。これに対応して、3歳児の語彙は専門職の家庭では1100語、労働者の家庭では750語、生活保護受給世帯では500語だった。

前回の記事で取り上げた、恵まれない家庭の子供を対象に幼少期の環境を改善して非認知的スキルを向上させた研究がここで重要となってくる。環境を変えることで子供の重要なスキルを向上させることは可能であり、政策によって状況を変化させることができるのだ。

ジェームズ・J・ヘックマン シカゴ大学教授

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James J. Heckman

1965年コロラド大学卒業、1971年プリンストン大学でPh.D.(経済学)取得。1973年よりシカゴ大学にて教鞭を執る。1983年ジョン・ベイツ・クラーク賞受賞。2000年ノーベル経済学賞受賞。専門は労働経済学。

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