日本は再生医療で世界に貢献できる 岡野光夫・東京女子医大名誉教授に聞く
再生医療にはおカネがかかるという意見がある。近視眼的に見ればそうかもしれないが、患者が働けずにずっと治療を受け続けなければならない場合、医療費や、場合によっては介護費用が必要となる。だから、治療を受けて働けるようになった場合の経済効果を考えてほしいと思う。何より患者さん自身の幸せが実現できる。
大量生産、そして他家の治療がスタートできるようになれば、どんどん値段が下がり、誰でも気軽に再生医療が受けられるようになります。車でいうと、今はF1カーのようなもの。カローラやプリウスのような車ができれば、誰でも自分の給料で買える。「再生医療のユニクロ」と言ってもいい。
その際、今までに例のない細胞工場のようなものが出てきたときに、どうやって認可するかは非常に難しい問題です。しかし、「前例がないからだめ」というのではなく、「患者にとっていちばんいいのは何か」という観点でやろうという雰囲気は、今回の法律改正で、この国の人たちが皆で共有したのではないか。
日本は投資の面ですごく遅れている
――産業化の動きは日本発で世界に広がるでしょうか?
今は法律改正もして日本が前に進んでいる。現実に、海外の大型資本が治験を日本で始めたいともいい始めている。投資の面では日本はすごく遅れている。米国では研究予算ひとつとっても政府からの助成金をはじめとして再生医療に膨大なおカネが動くが、日本は貧乏な学者たちが一生懸命頑張っているだけ。産業界や銀行など民間はとくに投資に慎重だ。
「医療は金儲けじゃないから(産業化なんて)だめだ」という人もいるが、おカネをかけることも重要です。細胞工場だって、おカネさえあればできるが、おカネがない。こういったことはアカデミアだけでは支えきれれない。どうしても産業サイドとのリンクが必要で、そのためにはまず大学や病院が変わらないといけない。そして、行政や産業界、患者さんたちと一緒になって再生医療という新しい世界をどう作っていくか考えていかなければならない。うかうかしていると、再生医療の産業化は日本からスタートしたのに、米国で花開いてしまうなどということも十分にありうる。