日本発の再生医療は「iPS」だけじゃない 「細胞シート」の果たす役割を開発者に聞く

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――細胞シートはどうして生着率が100%に達し、治療効果が高いのですか。

細胞シートを培養皿からはがすときに酵素を使わないので、細胞と細胞の間でのりの役割を果たすタンパク質が、酵素で壊されることがない。だから患部にペタペタ貼り付けて移植できるし、細胞シートを重ねると三次元の組織ができる。

細胞シート開発前の1980年代にも、皮膚のシートはありました。培養した皮膚をディスパーゼというタンパク質分解酵素を使って培養皿からはがしていたため、細胞と細胞をつなぐ「のり」の役割を果たすタンパク質が切れてしまい、きれいなシートがつくれない。移植後の生着率は100%にならなかった。それに、皮膚以外の細胞でシートを作ることもできなかった。

iPS細胞との融合でかなりの患者を治せる

――iPS細胞(人工多能性幹細胞)と細胞シート技術を融合させると、どんなことができますか。

iPS細胞ができる前は、大人の細胞で増やせる細胞については治療できるが、増やせない細胞については(心臓の治療で脚の筋肉の細胞を使うなど)工夫しなければいけなかった。iPS細胞ができたことで、体の中のほとんどの細胞を増やせるようになった。それを細胞シートや三次元の組織にして(注)使えば、かなりの患者を治せると思っている。

心臓の治療では、脚の筋肉の細胞の代わりに心筋細胞を貼り付けたら、もっと効果があるのではないか。膵臓の細胞は大人ではなかなか増やせないが、iPS細胞を使うことによって、インスリン(膵臓から分泌される、血糖値を下げるホルモン)が出ないⅠ型糖尿病を治せるかもしれない。神経の細胞も増やせないが、iPS細胞で脊髄損傷などが治せるようになったら、これは革命です。

iPS細胞はノーベル賞を取っていますから、国がiPS細胞に膨大なおカネを注ぐのはわかります。ですが、比較して細胞シートにはあまり注目されていません。両方をバランスよく回していくことによって、再生医療の重要な基盤ができるのではないかと思っています。

(注)細胞シートや三次元の組織にして:温度応答性細胞シート培養皿では、網膜色素上皮(数ミリ角)のような小さいものから、直径10センチメートルレベルのものなどさまざまなサイズに対応が可能。細胞シートの厚さは0.01~0.04ミリメートル程度と薄いが、多層化することで厚みを出せる。一定以上の厚さになると栄養が行き渡らなくなるが、血管新生因子を入れてやると立体構造も作れる。皮膚(やけど)のほか、角膜、心筋、食道、歯槽骨、中耳、軟骨でヒト臨床研究が開始され、気胸、肝臓、膵臓などへの応用研究も進んでいる。

 

小長 洋子 東洋経済 記者

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こなが ようこ / Yoko Konaga

バイオベンチャー・製薬担当。再生医療、受動喫煙問題にも関心。「バイオベンチャー列伝」シリーズ(週刊東洋経済eビジネス新書No.112、139、171、212)執筆。

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長谷川 愛 東洋経済 記者
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