祐子は光太に言われるままに目を瞑った。
すると不思議と祐子の頭の中に先日別れることになった婚約者の友哉の顔が思い浮かんだ。
そして、“もしも自分が美人だったら”婚約者の友哉からのアプローチを受け入れていただろうか? と3年前のことを思い返していた。
しかし、思い返してすぐに祐子は、その前にアプローチされていないかも知れないと思った。
なぜなら、友哉は、“見た目より中身”という、祐子にとって吐き気がする綺麗事が好きな男である。そんな友哉が、美人になった祐子にアプローチするとは思えなかったからだ。
それに祐子は、「美人だったとしたら27歳で高望み婚活をしていたあの時期に、きっとみんなが羨ましがるようなハイスペ男子を捕まえることに成功していたに違いない」とも思った。
「鏡に映る自分をじっと見つめて」
そうやって“もしも自分が美人だったら……”と過去を遡り、その妄想がもうすぐ現実になるかもしれないことに興奮状態になった。
祐子が頭の中で何を妄想しているのか光太にはわからなかったが、これまでの言動と祐子の様子から直感的に魂が肉体を離れる準備を始めているように感じた。
鏡に魂を吸い込まれる女性とそうでない女性では事前に聞いてくる質問が全く違うのである。
「それではいきますよ!! 1・2・3。はい!! それではゆっくり目を開けて、鏡に映る自分をじっと見つめて下さい」
恐る恐る鏡に映るゴリラ顔の自分と目を合わせた。
異変が起きたのは次の瞬間だった。まるで強力な接着剤で貼り付けられたポスターが無理やり引き剥がされるように、自分の肉体から、意識だけが引きちぎられる感覚に祐子は陥ったのである。
それは明らかに、これまで慣れ親しんだ自分の肉体が自分のものではなくなるような感覚で、祐子は恐怖すら覚えた。
しかし、竜巻の中に迷い込んだ塵紙のように、この状況に対して祐子には抵抗する術がなかった。引きちぎられた意識は、ぐるぐると宙を彷徨い続け、とうとう祐子は意識を失ったのである。
<第2回に続く>
(※この物語はフィクションであり、実在の人物・団体とは一切関係がありません)
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