いつもの失礼なスタイルの挨拶をかます光太の容姿を、祐子は舐め回すようにチェックしていた。
“ネットで評判の通りブサイクじゃない。
だけど、いくらこの男がお金持ちでもちょっとこの顔じゃ付き合えないわね。
てかこの人、そもそもお金持ちなの?
何1つ高そうなモノは身につけていなさそうだけど。
特別メニューのカットの料金が30万円。
予約が割とすぐに取れたことから見積もって、だいたい月に予約が10件ってところね。そうなると、月の売り上げは最低300万円。
でも場合によっては半額返金してるわけだし、300万円って予想は少しざっくりだな。
何割の客に半額返金しているんだろう?
まぁ細かいことはわからないけど、家賃とか経費とかを差っ引くと年収はいっても600万円ぐらいってところか。
うーむ……、
この顔で年収600万円はキツイなぁ……。
っておいおい私は何を考えてんだ。
私みたいなゴリラ顔の女、向こうだって無理でしょう”
祐子には無意識に出会った男を結婚相手として査定する悪い癖があった。
その悪い癖に気づいて祐子は自分にまた一段と嫌気がさした。
「オレの顔になんかついてますか?」
「心の準備は良いですか?」
いつも以上に何かを観察されていることを感じとった光太は祐子の意図を探ろうとした。だが、まさか自分が結婚相手として査定されているなんて知るよしもなかった。
「いえいえ気にしないで下さい。とても素敵な雰囲気の方だなと思い見惚れてしまってました」
思っていなくても条件反射で適当な褒め言葉を見つける。
これも祐子が高望み婚活をする中で身につけた無意識の習慣の1つだった。
「ありがとうございます。あんまり初対面で褒められることないですけどね。言われると嬉しいもんですね。今日はコンプレックスカットをご希望だとお伺いしてますので、まずはロッカーに荷物をしまってあちらの奥の席におかけになって下さい」
光太は祐子の社交辞令を受け流し、ナルシスの鏡のある奥の席へと案内した。
「さぁ、中橋様。心の準備は良いですか? ナルシスの鏡に実際に自分の姿を映し出す前に、今回ご利用して頂きます“コンプレックスカット”にかかる時間と料金、並びに当店で所有しております大変珍しい鏡・ナルシスの鏡について改めて説明させて頂きますね」
席に祐子を座らせた光太は説明を始めた。
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