「ネット上では色んな情報が出回っていてご存じかもしれませんが、実際にこのメニューの提供時間は6時間頂いております。中橋様は13時からのご予約ですので終了する時刻は19時を予定しております。
ただしこれは今からナルシスの鏡と向き合って頂き、中橋様のコンプレックスが鏡にしっかり反応した場合の話になります。鏡が中橋様のコンプレックスから大きな絶望を感じとった場合、中橋様の魂は鏡の中へと吸い込まれます。
そして魂は鏡の中の世界を旅することになります。その世界で中橋様が体験するのは理想の容姿を手に入れたもう1つの仮想現実です。でもその世界はリアリティがあり過ぎて鏡の中の世界と現実の世界の区別はつかなくなるでしょう。
ですから夢を見るのとは全く違う感覚を味わうことになります。そして魂の抜け殻として現実世界に残された肉体は仮死状態となりますので、魂が旅をできるのは6時間が限界です。
ただ鏡の中の時間と現実の時間の流れは異なります。
66日以内に迫られる選択
現実世界での6時間は、鏡の中の世界での時間では66日間になります。だからもしも元の現実に戻りたい場合は、鏡の中の世界の時間で66日以内にまた鏡の前に戻ってくる必要があるわけです。
つまりもし鏡に魂を吸い込まれることになったのなら中橋様は、
美しい姿を手に入れた鏡の中の世界を生きるのか?
元の容姿に絶望した現実を生きるのか?
66日以内にその選択を迫られることとなります。そして66日を過ぎてもなお魂が鏡の中に残る選択をした場合、元いた現実の世界で中橋祐子という存在は消滅することになります。
抜け殻になった肉体も6時間後には鏡に回収されてしまうわけです。そして元にいた世界で中橋様に関わった全ての人の記憶からも中橋様にまつわる記憶は消えてしまいます。
中橋様の場合は独身でいらっしゃるので割とリスクは少ないかなと思います。もしもその人物に子供や孫などの子孫が存在する場合、同時にそれらの存在は全て鏡の中に飲み込まれ消滅してしまうことになりますので。
ここまでざっと説明致しましたが、ご理解頂けましたでしょうか?」
ネットで事前に確認した通りの情報を説明する光太の方を見て、祐子はここに来たら絶対に聞こうと思っていた質問をし始めた。
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