自分の容姿に絶望した33歳彼女が覗く不思議な鏡 小説『コンプルックス』試し読み(1)

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「あのぉー、1つ聞きたいことがあるんですが良いですか?」

「はい、何でも遠慮なく聞いて下さい」

「もし魂が吸い込まれたら鏡の中の世界で美しい容姿を手に入れた自分を体験するわけじゃないですか?

純粋に鏡の中の世界での私の過去の情報ってどうなるんですか?

私はブスだったのに突然綺麗になった人として認識されるのか?

私がブスだった頃の記憶は周りの人達の記憶から消えてしまって私の知らない過去が作り出されてしまうのか?

私の過去の記憶と周りの過去の記憶がズレてしまったとしたら最初ってタイムスリップしてきた人みたいになりませんか?」

「過去の自分と決別できる」

「良い質問をしますね。もう鏡の中の世界に行く気満々じゃないですか。それはその通りで鏡の中の世界では、自分がブサイクだった頃の記憶を覚えているのは中橋様だけになります。

もちろん鏡の中の世界では、美人だった過去が存在します。ただ、それは鏡の中の世界に入った中橋様にとっては持ち合わせていない記憶です。つまり、鏡の中の世界に入った中橋様は、一種の記憶障害のような状態を味わってしまうことになります」

「えぇ、やっぱりそうなんだ。じゃあ私の非モテだった学生時代や婚活に挫折した思い出は全部、全部、全部、私だけの思い出になるのね」

「はい。恐らく中橋様ご自身の価値観と想像力の中で、“もし自分が美人だったらあの時の体験はこうなっていたのにな”というタラレバの妄想の体験が、鏡の中の世界では過去の記憶そのものになるはずです」

「うわぁー! それ最高じゃない。じゃあ本当の意味でブスで悩んできた過去の自分と決別できるってことね。私、絶対に鏡の向こうに行ってみせるんだから。鏡にへばりついてでも絶対行ってやるんだから」

「いやいや物理的に頑張ってどうのこうのってものでもないので変に気合い入れるのはおすすめしません。でも覚悟はもう決まってるわけですね。じゃあ早速、鏡のカバー外しますよ。中橋様は目を瞑って下さい」

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