なぜ先生は学生を「怒れなく」なっているのか 教育現場を弱体化させている1つの「妄想」

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鳥羽:とにかくヒエラルキーがあるところで上の立場の人が力を発揮するとハラスメントになる、っていうのは、いまや小学生でも知っている「常識」なので、指導者や先生と言われる立場の人たちは動きにくい世の中ですね。

「脱権力」を叫ぶ人が最も権力を行使しようとする

舟津:ヒエラルキーがある状況での権力の行使が、なんでもパワハラに回収されてしまう問題がある、というのはよくわかります。そういう意味では、主語は大きいですが、現代社会は基本的には脱権力を目指しているように感じます。もちろん、実際には権力を持つ人はたくさんいるわけですが、全体として、表向きには、権力をできるだけ排除しようという方向だと思うんですよね。

例えば、私の記事や本で「べき」という言葉を用いるだけで否定的に捉えられてしまう、という経験がありました。「若者はこうあるべき」と言った瞬間に、それが押しつけと見なされ、間違った教育だと批判されるのです。これが頻繁に見られる現状では、「べき論」を語るのが不可能になっていきます。

拙著の基本スタンスは、ピュアな若者たちが大人の行動を真似しているのだ、というものです。脱権力についても同様で、大人が「べきとか言ってる偉そうな人は嫌いだ」とか「権力を振りかざす人は嫌だ」というロジックで他人を非難する姿勢を、若者は模倣していると思います。本当に偉い人が、偉いから偉そうに振る舞っていたら、それを「偉そうだ」「権力を振りかざしている」と非難し、不快だからやめろと騒ぐ構図がある。まさにパワーハラスメントになるわけですよね。

そうなると、たしかに大学の先生って権力の塊であって、何百人もの学生を前にして一段高いところから講義をするわけですから、講義自体が権力の行使と見なされることがあります。でも別に、日常的に権力を振りかざしてハラスメントをしているわけではないんです。当たり前ですけど。

つまり、権力を行使して利己的な振る舞いをする以前に、権力をもつこと自体が糾弾される状況になっている。「べきだ」って言った時点で権力性を感じさせるからダメだ、となってしまう。そして「大学の先生は偉そうだからダメだ」という空気が強まり、動物性を発揮して子どもを抑えることも許されない。八方ふさがりです。

最も欺瞞があるのは、そうやって脱権力を叫んで権力を叩く側の人が「べき論」を駆使していることなのですが。大学の先生が「べき」って言っただけで嫌な顔をする人が、大学の先生はこうあるべき、と平気で押し付けてくる。脱権力を叫ぶ人が最も実効的に権力を行使しようとする転倒が、現実に起きてしまっています。

(7月17日に配信される第2回に続く)

鳥羽 和久 教育者、作家

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とば かずひさ / Kazuhisa Toba

1976年福岡生まれ。専門は日本文学・精神分析。大学院在学中に学習塾を開業。寺子屋ネット福岡代表取締役、唐人町寺子屋塾長、及び単位制高校「航空高校唐人町」校長として、小中高生150名余の学習指導に携わる。著書に『親子の手帖 増補版』(鳥影社)、『おやときどきこども』(ナナロク社)、『君は君の人生の主役になれ』(筑摩書房)など。また、BTSとARMYの関係性を論じたシリーズ講座「推しの文化論」も各所で好評を博す。

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舟津 昌平 経営学者、東京大学大学院経済学研究科講師

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ふなつ しょうへい / Shohei Funatsu

1989年奈良県生まれ。2012年京都大学法学部卒業、14年京都大学大学院経営管理教育部修了、19年京都大学大学院経済学研究科博士後期課程修了、博士(経済学)。京都大学大学院経済学研究科特定助教、京都産業大学経営学部准教授などを経て、23年10月より現職。著書に『制度複雑性のマネジメント』(白桃書房、2023年度日本ベンチャー学会清成忠男賞書籍部門受賞)、『組織変革論』(中央経済社)などがある。

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