ウイスキーが「おじさんのお酒」から激変したワケ 市場復活に導いたサントリーのハイボール秘話

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2010年代以降は、角ハイで需要を取りきれなかった層へのアプローチを進めた。2010年には、より手頃な価格帯の「トリスハイボール」を提案。角ハイよりもカジュアルなイメージで、20代女性などの支持を集めた。

2014年にはアメリカ蒸留酒大手のビーム社(現サントリーグローバルスピリッツ)を買収し、バーボンウイスキーを使った「ジムビームハイボール」(ジムハイ)を提案。国産にはない輸入もののよさを訴求し、需要開拓を進めている。

さらには2000年代以降、ジャパニーズウイスキーがインターナショナル・スピリッツ・チャレンジなど国際的なコンペティションで評価されるようになると、サントリー「山崎」やニッカウヰスキー「余市」など、高価格帯品の人気も過熱していく。

2023年、サントリーのウイスキー販売金額は10年前の2014年比で倍増となった。ハイボール文化を育て、醸成してきたこと。ブームが下火の中でも地道な飲み方の提案をやめず、試行錯誤を続けたことがウイスキーの復権につながっていった。

ハイボールは「ソウルドリンク」になれるか

しかし、国内酒類市場には課題もある。人口減少による市場縮小は必至だ。低価格帯のカテゴリーでは、ハイボール缶よりも安価な発泡酒や旧・新ジャンル、チューハイなど競合がひしめく。ウイスキーやハイボールもブームが去れば原酒が余り、設備投資が無駄になるリスクもある。

それでもサントリーは、今後も国内外で需要が安定的に伸びていくと見る。ウイスキー部の鈴木崇資課長は「コロナ禍で消費者の嗜好は大きく変化し、(ウイスキーやハイボール缶のような)多少値段が高くても本格的なものを飲みたいという需要が増えた」と話す。実際、コロナ禍を経ても、ハイボール缶の伸びは続いてきた。

鈴木崇資ウイスキー部課長(写真左)と奈良匠ウイスキー部長(写真右)。2008年から7年間「角瓶」のブランド担当を務めた奈良部長は「以前は社内に”ウイスキーは何をやっても売れない”という雰囲気があった」と振り返る。

「ハイボールの次はどんなお酒かと聞かれても、やっぱりハイボールだ。働く日本人の、ひいてはアジアのソウルドリンクになってほしい」(奈良部長)。

国内の業務用は角ハイとジムハイの2ブランドを柱に、飲食店に両商品を置いてもらえるよう営業を進める。海外では世界的に知名度の高いジムビームを武器とし、韓国などアジア中心に、ハイボール文化を根づかせる考えだ。

物価高で節約志向が高まり、低価格帯商品の競争が激化する中、ハイボールは今後も成長を続けられるか。質と価格のバランスを重視した綿密な戦略が求められそうだ。

田口 遥 東洋経済 記者

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たぐち はるか / Haruka Taguchi

飲料・食品業界を担当。岩手県花巻市出身。上智大学外国語学部フランス語学科卒業、京都大学大学院教育学研究科修了。教育格差や社会保障に関心。映画とお酒が好き。

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