「マウントを取る道具」として広まる歪な論文信仰 専門家は「思考と責任」の便利な外注先ではない
與那覇:おっしゃる通りですね。奇妙なのはこれだけ「専門家信仰」が広がる一方、なんの専門家でもないひろゆき氏が「下らないっすね」と学者を貶すのを見て、「ひろゆきさんがズバリ言った!」と盛り上がる人も多い。どっちやねんという気になります。
舟津:納得感と権威づけさえあればいいということでしょうか。論文バトルが起きている一方で、アイドルや芸人さんがコメンテーターをしていて、そのコメントがすごく支持されていたり。たしかにコメントの上手い方、頭の良い方はたくさんいらっしゃると思いますけど、その方々は専門家ではないですよね。専門家じゃないとダメじゃないんかいという。
與那覇:「すぐに断言してくれる」という点でだけ、ひろゆき氏やコメント芸能人と専門家が、重なって見えるのかもしれませんね。それに対して、簡単には「正解」を出せない問いだから、可能なかぎり色んな観点からの意見を聞いて、じっくり考えていこうとする姿勢が尊重されなくなっている。
舟津:だからこそこの本では、意識して「答えはないですよ」って書きたかった。
與那覇:そこが本書の誠実なところだと感じました。Z世代の学生さんが「人生の正解」を性急に求めた結果、怪しいインフルエンサーを盲信したり、ヤバそうなモバイルプランナーの会社に入れあげちゃったり。あるいは内発性の幻想に囚われて「『本当にやりたい仕事』じゃないから、今の会社はダメだ」と思い込んでしまったり。
そうした躓きを犯しがちな若者に「焦るなよ」とストップをかけ、不安はいったん忘れて「安心していいんだよ」と励ます。そうした優しさが込められていますよね。
最後の答えは外注できない
舟津:この本で何か答えを与えてしまったら、それは私が外注ビジネスを肯定していることになってしまいます。この本を楽しんでくれたり、ためになった、考えさせられたと言っていただけるのは嬉しいですけど、この本が明確な答えを与えてしまってはいけない。「大事な問題こそ外注するな」ということを伝えたかったんです。
與那覇:語りかけるような文体も含めて、そこはしっかり届いていると思いますよ。
舟津:Amazonレビューには「呆れた結論」「つまらない」とか書かれますけど(笑)。
與那覇:推し活ならぬ「貶し活」との戦いは果てしない(苦笑)。どんな本にも付くんですよね、「最後まで読んだのにソリューションが書いてなかった」的なレビュー。
舟津:最後の答えは外注しないでください、と読者の方には伝えたいですね。この本に一貫した注意書きとして、だいたいのことは若者に限った話ではなくて、老若男女がそうであると思うべきであって。答えのない難しい問い、でも考える価値のある問いこそ、葛藤を経験しながら自分で考えるべきだし、そして異なる人と話すことで答えがわかっていくもののはず。「異なる人どうしでも共有できる言葉を作ってゆくのが、正しい意味でのダイバーシティ」なのであって、私の仕事は共有される言葉を作ることにあるのだと思っています。
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