任天堂、「脳トレ」をヒットさせた驚きの海外戦略 ゲーム「ローカライズ挑戦」の知られざる軌跡
このゲームのターゲットは、これまでビデオゲームをやったことのない人たちだ。こうした人たちはニンテンドーDSを持っていないため、ゲームをするには子どもや孫から借りるしかない。その後も引き続きこのゲームソフトを楽しむために、自分用のハードウェアを購入する。これは大きな買い物になるはずだが、日本のマーケットで実際にこうした現象が起きていた。
程なくして、親がDSをずっと使っていて困るという子どもたちの苦情が出始めた。「ブレーンエイジ」をずっと楽しみたいのなら、自分でDSを買ってほしいと子どもたちが親に訴え、それが功を奏したというわけだ。
ゲームのローカライズの難しさ
この結果に胸を躍らせた岩田氏と私は、「ブレーンエイジ」を西洋マーケット向けにどうローカライズするか話し合ったが、多くの課題が浮き彫りとなった。そもそも、西洋では手書き文字を認識できる既存のモデルがない。日本は文化的に同質化しているため、手書きを認識するマーケット向けのツールセットはすぐに作ることができるが、西洋では数字1つにしても手書きのパターンが様々なのだ。
NOAでテストプレイしたところ、様々な書き方があった。スピードがブレーンテストの重要な要素なだけに、ソフトウェアが様々な手書き文字を直ちに認識する、プロプライエタリ(システムの仕様や技術を独占的に保持し、情報を公開しないこと)・ツールを作る必要がある。
しかも音声認識にも同様のことが必要で、プレイヤーが声に出して読む日本発オリジナルの「ブレーンエイジ」と同等のモジュールを付けなければならない。つまり西洋マーケットのもう1つの困難は、言語の数だ。私の管轄地域だけでも、英語、スペイン語、ケベック系フランス語、ブラジル系ポルトガル語のバージョンが必要で、ヨーロッパのビジネスにはさらに多くの言語が必要になる。ソフトウェアをこれらすべての言語にローカライズするには、時間がかかる。
最大の問題は、「ブレーンエイジ」の価値を消費者にどう伝えるかだ。日本では、川島教授と彼の掲げる理論は非常によく知られていた。任天堂は販促グッズに彼の名前を入れて、ゲームの中ではプレイヤーに指導したり交流したりするキャラクターとして、ずんぐりした彼の顔を使った。だが日本以外の国では、これに関連する商品などまったく紹介されていなかった。
私たちのマーケットで人気が出ていたのは、数独という数字を入れ替えるパズルだ。数独パズルは大手の新聞でもクロスワードパズルと並んで掲載されつつあり、数独専門の本がベストセラーになっていた。多くの人が数独のパズルを解くことが記憶力の改善につながると考え、西洋では特に年配の消費者に大きな人気となっていた。
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