任天堂、「脳トレ」をヒットさせた驚きの海外戦略 ゲーム「ローカライズ挑戦」の知られざる軌跡
私は岩田氏に、「ブレーンエイジ」の西洋バージョンに数独を加えることを提案した。「ミスター・イワタ、うちのマーケットで『ブレーンエイジ』の魅力が伝わるか不安です」と私は切り出した。「川島教授は西洋では名を知られていません。日本では教授のこれまでの研究を使って、『ブレーンエイジ』というソフトウェアを認知させることに大成功しました。
ですが、こちらではそこまでの成功は見込めません。しかも日本の文化的な事情がこちらとは違います。日本では50歳以上の人口比率が、こちらを断然上回っています。アメリカやカナダとか、特にラテンアメリカで私が管轄するマーケットでは、購買層は大きく違い、若い人口がはるかに多いのです。うちのマーケットではこのゲームソフトについて、違った観点から考える必要があります」
「そこで、ゲームソフトを西洋向けにローカライズする際、数独を加えたいと考えています。こちらでは数独が大流行していて、数字のパズルが年配に人気ですから、ターゲットオーディエンスとして見込めます。しかも若い世代もパズルを楽しんでいますから、彼らにも届くはずです」
すぐに岩田氏はこう答えた。「レジー、『ブレーンエイジ』は川島教授の研究に基づくものだ。教授の本をヒントにアクティビティをデザインして、これを本人に納得してもらうまでかなり時間をかけて粘ったんだ。教授が数独を研究に使ったことがあるかもわからない。君の提案は実現が難しいだろう」
岩田氏は個人的に難しいアイディアだと考えているようだった。「ブレーンエイジ」を手掛ける際、彼はまず川島教授と会って、アイディアについて話をすることから始めていた。きっと任天堂が「ブレーンエイジ」のコンセプトをどう表現するかを、細かく説明したことだろう。岩田氏と仕事をするようになって数年後に知ったのだが、彼が笑顔をやめて、長めに間を置いてアイディアに反応するのは、それを気に入っていないからだ。それでも私はこう続けた。
「ミスター・イワタ、数独についての研究素材は、川島教授の理論と合致しています。頭のエクササイズを短時間集中して行うことは、記憶力の改善につながるようです。教授にそれを伝えて、これが西洋にとって意義がある理由を説明すれば、わかってくれるのではないでしょうか」
今の私の説得を聞いて、岩田氏の中でこのアイディアを川島教授に持っていって、どうやって支持を取り付けようかと考えているのが見て取れた。
アイディアを紹介して、いきなりその場で決断を迫るのは馬鹿げている。このアイディアについて、岩田氏に時間をかけてじっくり考えてもらうことにした。それでもいつも通り、メールやビデオ会議でのコミュニケーションになると、私は数独や川島教授との話がどう進んでいるか常に尋ねるのだった。
数週間足らずで私は岩田氏から回答を得た。川島教授が数独を追加することに積極的に同意してくれたとのことだ。NCLのデベロッパーも、西洋で「ブレーンエイジ」をできる限り魅力あるものにするにはどうすればいいか考えていただけに、これを聞いて胸を躍らせた。
大切なのは仲間を作ること
新しく刺激的なアイディアを売り込む際は、仲間を作ることが必要だ。様々な角度からアイディアをプッシュすることによって、最終的な意思決定者が構想を支援してくれる可能性が高まっていく。
逆にあなたが最終的な意思決定者で、多くの部下がアイディアを提唱している際は、彼らが議論を重ねて団結しているかどうか、確認しておくことをすすめたい。
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