「今から10年ほど前、Honda E-Clutchの前身システムである、クラッチ自動制御システムの開発責任者になりました。技術検証の最初期モデルから機能や性能は良好でしたが、技術開発と製品開発は性質が異なるため製品化となるとコストや製造面で大きな課題をいくつも抱えました。もう一生、量産化にたどり着けないのではないかと考えたほどです」と、小野さんは開発初期の苦労を語る。
「Honda E-Clutchは進化型MTとしての位置付けですが、開発初期のころにはクラッチレバーがついてなかったり、逆にパーキングブレーキがついていました。しかし、量産に向けてシステム全体の思い切った見直しが必要だと判断し、シンプル路線に切り替えました。本来やりたかった“MTの進化”にこだわったのです。MTでできることはすべて織り込み、さらにHonda E-Clutchとして独自に進化させました。モーターで直接、クラッチを制御するのは社内でも無理だと言われていましたが、弊社『ASIMO』のロボティクス技術に関する知見を採り入れることで、大幅に速い制御周期で外乱やばらつきを抑えられる理想的なシステムが完成しました」(小野さん)
MTながらATライクに乗れる新たな楽しみ方の提案
よりスポーティに、よりイージーにライディングが行えて、疲労軽減から安全面でも寄与する。さらにHonda E-Clutchはいつでもライダーによるクラッチレバー操作やシフトペダル操作を受け入れてくれる。普段はシステムによるクラッチ制御をライダーが受け入れつつ、自身でフルにライディングを楽しみたいときは、いつもと同じMTモデルの操作で積極的に操ることができる。これこそHonda E-Clutchが目指した姿だ。
「個人的にはCB650R/CBR650Rに搭載できてうれしかった。直列4気筒ならではの鋭いエンジンの吹け上がりをHonda E-Clutchが際立たせることができるからです。これまでの試作車はすべて4気筒モデルでした」と、小野さんは満面の笑みで開発秘話を語ってくれた。
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