■割り材→直接飲用という消費者の変化が追い風に
ただ、古林氏らの「次は炭酸水が来る!」との直感は的中した。通常のミネラルウォーターと比べると市場規模はまだ5%程度と小さいものの、とりわけペットボトルでの展開を始めた効果は大きく、2007年の投入以来2010年までにゲロルシュタイナーは250%の急成長を遂げることとなった。この期間、日本のミネラルウォーター市場では輸送中のエネルギーロスが問題とされる「フードマイレージ」が注目され、輸入ブランドのシェアが低下していたにもかかわらずである。同商品の「天然炭酸水という特性と、同一カテゴリーの輸入ブランドがガラスびん入りなのに対し、ペットボトル入りで扱いやすく、加えて150円(税別)という手ごろな価格が消費者の支持を得た」と古林氏は説明する。成長をさらに確固たるものとするため、2009年には俳優・城田優を起用したテレビCMも投下しプロモーションも強化した。
また2009年頃を境に、日本市場では炭酸水の用いられ方に変化が現れていた。天然由来か否かは別として、従来、多くの炭酸水はカクテルやチューハイ、ハイボールなどを作るための、アルコールの“割り材”として用いられていた。それをストレートで飲用する消費者が増えてきたのだ。
では、この変化はなぜ起こり得たのか。「ビール会社のグループ企業にいながら、こんなコトを言うのも変な話なのですが・・・」と前置きし、古林氏は自身の仮説を説明してくれた。
「炭酸水という商品の物性的な価値を突き詰めていけば『のどごし』です。つまり、ビール系飲料に消費者が求めるものの大きな要素と同じ。おりしも市場はビール系飲料離れが進んでいる。また、2006年~2007年にかけては『ゼロカロリー炭酸飲料ブーム』がありましたが、それも既に一巡しています。ビールや炭酸飲料から様々な要素を取り去ってみると、最後には『のどごし』が残る。それを直接的に求める層が、炭酸水のストレート飲用をしているのではないかと考えられるのです」。
全てのビール系飲料や炭酸飲料ユーザーが「のどごし」だけを求めているとは限らないが、そうしたセグメントが存在するのも確かだろう。商品を手に入れることによって実現したい「中核的価値」を「のどごし」と考えると、それがどのように実現できるのかという「実体価値」はどうだろうか。ビール系飲料なら「ほどよい酔い心地」、炭酸飲料なら「爽快感」をもって実現できることが価値だ。さらに、中核的価値の実現に直接影響はないが、製品の魅力を高める要素である「付随機能」は、ビール系飲料なら「低カロリー」や「糖質ゼロ」、炭酸飲料なら「カロリーゼロ」がそれにあたる。
ビールの実体価値である「ほどよい酔い心地」はもはや不要として、アルコールゼロのビール系飲料を常用する人も増えてきた。そうした消費者ニーズの変化の中で、ゲロルシュタイナーは「のどごし特化飲料」というユニークなポジションが取れるのではないかと古林氏らは考えているという。
無料会員登録はこちら
ログインはこちら