日本でスタートアップが育つために必要な条件 ブームとともに広がる幻想と無視される現実
こうした視点は、新しい企業が誕生してから成長するプロセスを理解するために不可欠である。ある企業がなぜ成功したのかを知るには、成功企業を観察するだけでは不十分である。適切なセレクション(選抜や淘汰)が機能していない可能性もあり、結果だけ見ていると、何が成否を分けたのかについての理解が進まない。
一方、実務家、特にベンチャーキャピタル(VC)や投資家の視点では、スタートアップの定義はやや異なる。彼らは主に投資からのリターンに関心があり、VCから投資を受ける企業だけをスタートアップと見なすことが多い。しかし、実際にはVCから投資を受ける企業は全体のごく一部(0.2%程度)でしかない。アメリカのデータで見ても、VCは200社からスクリーニングして4社ほどに絞る。したがって、ごく一部だけをスタートアップとして認識してしまうと、それまでのセレクションプロセスはブラックボックス化してしまうことになる。
つまり、研究者とは逆で、一部の選抜された企業しか捉えていないということである。ただし、これは批判を意図したものではない。投資家が自分たちの利益を考えれば、成長ポテンシャルを持つ企業に注目することは当然であり何ら問題はない。とはいえ、経済全体あるいは政策的な観点からすると、選抜されたごく一部の企業のみを取り上げることは、スタートアップに対するポジティブなバイアスを生み出すことにもなりかねない。
スタートアップ支援において考えるべき点
あくまで、スタートアップに関する議論では、不都合な真実にも目を向けることが重要である。たとえば、政府はスタートアップに対してポジティブなメッセージを発信することが多いが、現実には多くのスタートアップが失敗しているか、生き残ったとしても大して成長しない。これを無視することなく、フェアな視点でスタートアップを評価することが求められる。
また、スタートアップの支援においては、「入り口」と「出口」の両方を考慮しなければならない。新しい企業の誕生だけでなく、倒産や廃業といった「退出」のプロセスも重要な点だ。市場には本来セレクションメカニズムが働いており、新しい企業が生まれる一方で、退出する企業もある。この循環がなければ、資源の流動化が進まず、新陳代謝が進まない。日本の場合、政府の保護政策や硬直的な労働市場などを背景にして、特に出口がうまく機能していないため、これを改善することが重要である。
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