日本でスタートアップが育つために必要な条件 ブームとともに広がる幻想と無視される現実

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さらに、起業活動は起業家個人の特性だけでなく、社会全体の影響を受ける。家族やロールモデル、エコシステム、社会の規範など、さまざまな要因が起業のインセンティブに影響を与える。このため、社会全体で起業に対する理解を深めることが重要である。たとえば、家族からの影響やロールモデルの存在は、個人の起業のインセンティブに強い影響を与える。また、労働市場を含め社会全体で起業が評価されることで、起業を目指す人が増えるだろう。

このように、起業活動を促進するためには、社会全体の理解と支援が必要である。また、短期的な視点での支援だけではなく、長期的な視点での支援が求められる。国や地域における起業文化は、政治的に大きな変化が起きても短期的には変わらないことがわかっている。起業活動を活性化させていくためには、長期的な視点での支援が必要ということだ。

ただし、人にライフサイクルがあるように、企業にもライフサイクルがある。赤ちゃんには保護が必要であるように、創業間もない企業には成長の足がかりとなる支援が必要だ。しかし、過度な保護は学習機会を奪うことになり、企業の成長を妨げることがある。たとえば、挑戦者と呼ばれる企業、すなわち成長志向が強い創業間もない時期の企業には公的な支援が必要であろう。一方で、成長見込みの小さな、創業から年月の経った企業や既に成長し切った企業への支援は効果が薄い。したがって、リソースを効果的に配分することが求められる。

政府による政策の検証から教訓を引き出す

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また、政府のなかにはGAFAのようなスーパースター企業を育成しようという声もある。大谷翔平選手がWBC決勝戦前のミーティングでおっしゃったように、「憧れるのをやめましょう」。GAFAのような企業はアメリカ政府が育成した結果生まれたわけではなく、主に民間の力によって成長してきたものである。

政府の役割としては、起業活動を支えるエコシステムを整備することのほうが重要な仕事だ。そして、政府の政策も、単なる施策の実行だけでなく、その効果を検証し、次世代に教訓を残すことが求められる。その点については、われわれ研究者の出番もあるだろう。

スタートアップに関しては、大いに幻想や誤解があるため、フェアに理解する必要がある。そして、今のブームを「本物」にするためには、起業活動に関わる人々だけでなく、社会全体でスタートアップについての理解を深めることが近道であるだろう。

加藤 雅俊 関西学院大学経済学部教授

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かとう・まさとし / Masatoshi Kato

2008年一橋大学で博士号(商学)取得。一橋大学専任講師などを経て、18年から現職。近年はスタートアップに関する研究に従事。著書に『スタートアップの経済学』(近刊、有斐閣)。

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