日本の医療 制度と政策 島崎謙治著 ~制度、政策を検証し共通解のベースを提供
評者は仕事柄、医療問題に関する文献を読む機会が少なくないが、しばしば「現在の医療制度は行き詰まっている。今こそ抜本改革の断行を」といった単純な主張を見聞きする。それらは制度や政策がたどってきた歴史や理念を踏まえておらず、内容は空疎であることが少なくない。本書はそうした論とは一線を画している。
「はしがき」で著者は次のように記述する。「迂遠であっても、基本に立ち返り、日本の医療制度・政策の『立ち位置』を確認し、将来を見据え医療制度の何を堅持し何を改めるべきか議論を重ね『共通解』を見出すよりない。今、まさに求められているのは、そうした議論の共通のベースを作ることである」。
400ページ以上に及ぶ本書の構成は緻密だ。日本の医療制度の歴史を明治初期から掘り起こし、国民皆保険制度に至る道のりやその後の議論を詳細に検証する。そのうえで、ドイツ、米国、スウェーデンなど異なる医療制度を持つ諸国での改革の動向を検証したうえで、そこでの争点や解決手法を明らかにする。外国との比較は、わが国の制度特質を明確化するとともに、他国での成果や失敗の原因分析が医療政策の実現可能性を考えるうえで有用との考えに基づく。
そして本論ともいえる7章以降では、日本の医療を支える2本の柱、すなわち医療保険制度および医療供給制度における主要な課題として、医療財源調達問題、混合診療、国民健康保険や高齢者医療制度、医療機関の機能分化、診療報酬制度などについて、現状、課題、争点、あるべき方向性を丁寧に検証しようとしている。テーマによっては評者は著者と価値判断を異にするが、一般書としても学術書を超えた深みがある。医療問題の認識を深めたい「格闘を辞さない人」に薦めたい。
しまざき・けんじ
政策研究大学院大学教授。1978年東京大学教養学部卒業、厚生省入省。千葉大学法経学部助教授、厚生労働省保険局保険課長、国立社会保障・人口問題研究所副所長、東京大学大学院比較法政国際センター客員教授などを経て、2007年から現職。
東京大学出版会 5040円 432ページ
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