長く低迷が続いていたセメント市場がにわかに活気を帯びている。東京のセメント価格(バラ積み)は、1トン当たり1万0600円前後と、8月に入って500~700円上昇している。値上がりは2年ぶりのことだ。
セメントの国内販売数量は、公共投資や民間需要の減少によって過去20年で半減。2010年は4104万トンと業界が数年前に内需の下限と見ていた5000万トンすら割り込んだ。日本より人口の少ない韓国を下回る水準で、価格も低迷していた。
そこで、メーカー各社は生産能力を縮小。業界最大手の太平洋セメントは10年に3工場を閉鎖し23%削減したほか、3位の住友大阪セメントも20%削減した。ところが、東日本大震災の復旧・復興工事を見据えて、需給がタイトになりつつある。
セメント製造は赤字だが
もう一つの理由は、メーカーが値上げに本腰を入れ始めたことにある。今年5月、住友大阪セメントの関根福一社長は決算説明会で「6月から1トン当たり1000円の値上げを実現したい。受け入れない取引先には出荷停止も辞さない」(関根社長)との方針を表明した。
これまでも燃料となる石炭価格の上昇を理由に、値上げを打ち出してきた。ただ、納入先でセメント需要の約70%を占める生コン業者も厳しい収益環境にあったため、強硬な姿勢は打ち出せず、空振りに終わっていた。
ここにきて出荷停止をちらつかせるほど豹変したのは、いびつな収益構造の是正に動き出したからだ。
実はメーカー各社の収益を支えているのは、廃棄物のリサイクル収入だ。他の産業で発生した廃棄物はセメントの原燃料として使えるため、積極的に受け入れてきた。