オペラって何?400年の歴史を5分で解説!前編 「オペラ大図鑑」でたどるオペラの壮大な歴史

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ヴェネツィアでは次々と作曲家が登場した。アントニオ・ヴィヴァルディは18世紀初期のスターだ。ヨーロッパの宮廷もまた、こぞって新しい「ディヴェルティメント」(娯楽)を求めたが、多くの場合、それを提供するのはイタリア人だった。ジャン゠バティスト・リュリはルイ14世付きの作曲家としてオペラをフランスに紹介した。ドイツ人のゲオルク・フリードリヒ・ヘンデルは、18世紀のロンドンでオペラの人気を高めたが、英語による最初のオペラはヘンリー・パーセルの《ディドとエネアス》で、早くも1689年に上演されている。

オペラの改革

17世紀から18世紀にかけて主流となったオペラの形式は「オペラ・セリア」(正歌劇)である。物語は語りに近い「レチタティーヴォ」(叙唱)によって語られ、感情の高まった瞬間をアリアが引き継ぐもので、これによりソリストたちは名人芸を披露することができた。その多くはカストラートで、高音を保つために思春期以前に去勢された男性の歌手たちだった。ナポリのオペラはユーモラスな「オペラ・ブッファ」(喜歌劇)の導入によってオペラ・セリアの厳粛さを捨て去ったが、これもまた歌手に卓越した技術を要求するものだった。

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18世紀後半には2人の作曲家が古い殻を打ち破った。ウィーンを拠点とするクリストフ・ヴィリバルト・グルックが、いわゆる「オペラ改革」の重要人物として登場し、オペラを声の誇示からドラマティックな表現へと変えた。とくに《オルフェオとエウリディーチェ》は、オペラにとって初めての紛れもない天才、ヴォルフガング・アマデウス・モーツァルトの登場へとつながる道を切り開くことになった。

モーツァルトは「オペラ・セリア」と「オペラ・ブッファ」の遺産を受け継いだだけでなく、レチタティーヴォの代わりに地声のせりふを使ったドイツのジングシュピールも受け継いだ。だが、モーツァルトはこれらの形式を利用しつつ、台本作家の大胆さに類いまれなインスピレーションで呼応することで、形式そのものを変貌させた。今日、モーツァルトに対する高い評価は《フィガロの結婚》《ドン・ジョヴァンニ》《コジ・ファン・トゥッテ》《魔笛》という晩年の4つの傑作に基づいている。実際、オペラの歴史はモーツァルト以前と以後に大きく分けることができる。

アラン・ライディング

『ニューヨーク・タイムズ』紙の元ヨーロッパ芸術特派員。長年のオペラ愛好家で、数多くの著書がある。

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加藤 浩子(監修)

オペラ評論、音楽物書き。著書に『ようこそオペラ!』『オペラでわかるヨーロッパ史』『カラー版 音楽で楽しむ名画』『バッハ』『16人16曲でわかるオペラの歴史』等著書多数。

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