曄道:堀内さんがおっしゃった「場が重要」ということは私も全く同感で、そもそも大学とは「場」であるべきだと思うんです。人が集まり、そこで議論が起こって、そこから何かが生まれるかもしれないという期待感に満ちた場であるべきなのです。
ところが、いまの大学は学生の数も多くなって、空間的にも窮屈なものになってしまっている。なので、少しでも昔のヨーロッパの大学のような、知が交錯する、そういった雰囲気を備えた場が欲しいという思いから15号館をつくりました。
設計者は教室をつくると思っていましたので、当初出てきた設計に対して、私のほうからいろいろ注文を付けた記憶があります。いや、つくりたいのは教室ではなくて、知が交錯する場なんだということを繰り返し説明しながら、何とか完成に至りました。
30社近い企業が「教養教育」に賛同
堀内:いまプロフェッショナル・スタディーズには40近い講座があるとお聞きしましたが、基本はスポンサー企業の社員が受講するかたちになっているのでしょうか。
曄道:もちろん個人で参加されている方もいますけれども、アドバイザリーパートナー企業会員さんとスタンダード企業会員さんに属する方が圧倒的に多いです。
堀内:企業の会員の方々はどういった問題意識で参加されているのでしょうか。
曄道:会員企業の社長、副社長はじめ役員の方々、あるいは人事責任者の方と話をし、認識を共有したのは日本のキャリア形成や教養教育はグローバルスタンダードではないということでした。
さらに、教養というものを考えたときに、豊かな教養が人間同士の信頼関係の重要な基盤となるのであって、ビジネスで厳しい交渉事を行う人たちにとって、教養はとりわけ大切な要素であるにもかかわらず、日本の教育現場ではそのことが軽視されているという、私が危機意識として感じている点についても認識を共有できました。
堀内:最近はコスパ重視の社会になっていて、ゴールが明確で、これを学ぶとこういう効果があるといったプログラムが人事部門では受けがよいようですが、教養はこれとは逆で、すぐには効果が表れる類のものではないと思います。この点、どのように企業との対話でクリアされているのでしょうか。
曄道:その点に関しては、実際にコスパ的なお話をされる企業の方もいらっしゃいます。先ほども述べましたが、人間どうしの信頼関係というのは、その人のスキルやお互いの損得だけで成立するわけではなく、やはり教養という人間の軸が問われる部分が大きいと思っています。この信頼関係の構築と教養の大切さについて共感いただいた企業の皆さんが参加してくださっています。
しかし私は、ある程度、共通の目的を持つ人たちが集まったほうが、そこで何かが生まれると期待できると考えていますので、これを肯定的に受け止めています。現在のところ、30社近い企業に賛同いただいていますが、これは当初の私の期待を超えるものです。