ゼロからの文明再興に必要なものとは? 復興のための速攻マニュアル

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あらゆる知識を網羅した百科事典が残せればいいが、それを現実的ではないとするならば巨大な知の体系を展開できる知識の種を残すことが重要になってくる。文明を一刻も早く元の水準に戻し、快適な暮らしを取り戻すために。

そこで速攻手引書は、大破局後の世界に合った適切な技術を供給するものであることが肝心となる。今日、援助機関が発展途上国の社会に適した中間技術を提供するのと同様である。こうした技術は、現状を大いに改善する解決策──既存の初歩的な技術からの進歩──だが、それでも地元の職人によって実際的な技能と道具、および手に入る材料で修繕や維持ができるものだ。

 

いったん文明が崩壊したあとの世界で当然想定されるのは資源の枯渇だ。森林資源……は文明崩壊の余波でいったんは回復するかもしれないが、石炭、石油、天然ガスは減ったままだ。資源を無尽蔵に使い尽くす資源ブーストはもはや使えない。再生可能エネルギー技術を重視し、資源を極力使わずに進む、これまでとは違った方法が必要になる。つまるところ文明の再起動は、これまでたどってきた歴史の「再演」にはならない。別のまったく新しいルート、新しい歴史を切り開いていくことになるだろう。

もっとも効果的な医療は、単純に手を洗うこと

さて、それでは実際どのような知識が『何百年にもまたがる遅々たる発展は省略する』形で有用となるだろうか? たとえば医療。個人レベルでもっとも効果的なのは単純に手を洗うことだ。かつて人類は自分の手が病気を媒介させているとは夢にも思わずさまざまな菌や寄生生物を媒介させ多くの命を奪ってきたが、それも手を洗うだけで回避できる。

加えて、飲料水が排泄物で汚染されないようにするなど、多くの病気が微生物によって引き起こされ、人から人へ移動するという大原則を覚えているだけで1850年代ぐらいの健康レベルを維持することが出来るだろう。そんな単純なことに気がつくまで人類は長い間犠牲を払い続けてきたのだとも言える。

食べ物はどうか。命を守るすべをある程度整えた後は、当然ながら食べ物が必要になる。スーパーやコンビニの長期的に耐えうる食品だけを食べるのは一時の猶予になっても長期的な解決にはならない。やはり農業をやるしかないだろう。世界にはシード・バンクといって何十億もの種子を保存している機関が幾つもあり、そうでなくとも農地に早急に駆けつければある程度の種の確保はそう難しいことではない(と仮定する)。

何を育てればいいのかは現代社会を見ればある程度答えが導き出せる。米国、アジア、ヨーロッパの主要な文明は、トウモロコシ・米・小麦のわずか3種類の主要な産物の上に成り立っている。その後は鋤や鍬、砕土機やすじまき機といった、原理的には簡単でありながらも優秀な装置を早急に作り上げ、ノーフォーク農法によって土の肥沃さを保ったまま農業を持続的に展開可能とすることで18世紀レベルにまで農業の歴史を進めることができるだろう。

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