2011年夏ベスト経済書2位・『国家対巨大銀行 金融の肥大化による新たな危機』を書いたサイモン・ジョンソン氏に聞く--回転ドア人事が生む金融と政治の癒着
--「大きすぎて潰せない」銀行のあり方が重大な問題だと指摘しています。にもかかわらず、巨大銀行は金融危機以前にも増して、米国の資産への支配を強めています。
そのとおり。政府と議会はじかに銀行を縮小・シンプル化していない。危機に直面した銀行に対し、FDICとFRB(米連邦準備制度理事会)が規模の縮小を促すことができる解決プロセスを策定したのみだ。銀行は失敗しても自らの力で乗り越えられるはず、ということだ。
--経営陣の報酬については?
大きな問題だ。利益率を上げれば報酬に反映されるが、失敗のツケは、破綻企業救済といった政府支援を通して社会に押し付けられる。
--ウォール街を擁護する立場からは「問題の源はファニーメイとフレディマックにある。住宅ローンを保証し、民間の貸手から住宅ローンを買い取るこの二つの政府機関こそ元凶なのだ」という見解があります。
そういう見解が存在するからこそ、本を書いて本当のことを説明しようとした。問題を引き起こした無理なローンの急拡大と、ローンがパッケージ化されて売却された手法を調べてみれば、公的機関ではなく、民間金融機関が事態を悪化させたことがわかる。ファニーメイやフレディマックは不必要なリスクを取り、納税者に大きなコストを負担させた。しかしそれが金融危機の根本的原因だというのはお門違いだ。
Simon Johnson
マサチューセッツ工科大学スローン経営大学院教授、ピーターソン国際経済研究所シニアフェロー。IMF元チーフエコノミスト。
『国家対巨大銀行 金融の肥大化による新たな危機』
サイモン・ジョンソン、ジェームズ・クワック著/村井章子訳
ダイヤモンド社/1890円
推薦者のコメント
・金融恐慌の理由を解明
金融部門肥大化が金融恐慌を起こし、「大きすぎて潰せない」から国民の税金で救済する不合理を招いたことを解明している。(奥村 宏)
・日本の問題にも通じる
金融危機を規制強化で防ぐことは難しく、大きすぎて潰せない金融機関を作らないことが重要だと主張する。日本の問題にも通ずるところがあり、考えさせられる。(秋山亮司)
・巨大企業の分割は困難
本書は巨大投資銀行と金融商品の内幕を暴き、「グリーンスパン伝説」も打ち砕く。ただし著者らが提唱する巨大投資銀行の分割・解体は難しい。NTT分割民営化後も競争原理は行きわたらず、むしろ独占はひどくなった。(脇 英世)