息子を「世界一の富豪にする"実験"」の意外な効能 子供には「投資」ではなく「ビジネス」を教えよう

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資金需要がないのだから、受け皿となる投資先が国内にあるはずがない。資金需要のない日本の金利は当然低い(資金需要が強ければ、日銀はとっくに利上げしている)。結果的に資金が海外に流出し、現在の円安を招いている。これは、前回の記事(止まらぬ円安の「1200兆円の借金よりヤバい」現実)にも書いたとおりである。

お金を投資するか、若い時間を投資するか

小説『きみのお金は誰のため』の中でも、投資の実態を理解しない銀行員(七海)に、先生役のボスが苦言を呈しているシーンがある。

ボスは学習支援AIへの投資を例に、投資の真髄を語り始めた。
「彼らの会社には、僕や他の投資家が3億円を投資しているんや。投資に失敗してお金を損するのは僕ら投資家だけの話。その3億円は事業のために働いてくれた人たちに支払われていて、世の中のお金の量は減らへん。社会にとってお金は損失にはならんのや」
優斗は、ビリヤードの話を思い出した。
「払ったお金は必ず誰かが受け取っているんですよね」
(中略)
「投資の目的は、お金を増やすことだとばかり思っていました。そこまで社会のことを考えていませんでした。大切なのは、どんな社会にしたいのかってことなんですね」
苦笑いで恥ずかしさを隠す彼女に、ボスが優しく声をかける。
「そう思ってくれたんやったら、僕も話した甲斐があったわ。株価が上がるか下がるかをあてて喜んでいる間は、投資家としては三流や。それに、投資しているのはお金だけやない。さっきの二人は、もっと大事なものを投資しているんや」
ボスは七海と優斗を順に見つめてから、ゆっくりと続けた。
「それは、彼らの若い時間や」
『きみのお金は誰のため』151ページより

投資を否定しているのではない。投資することは、資本分配を受け取るという意味では有効だ。しかし、それが本当に社会を成長させているのかは別問題だ。新NISA枠で投資されているお金のおよそ8割が海外に流れているという話もある。

「日本の個人資産は預金ばかりで、もっと投資に回すべきだ」という批判もあるが、こんなに多くの割合を外貨に投資する国も少ない。外貨への投資は言うまでもなく大きな為替リスクもある。

岸田政権の「資産所得倍増プラン」は、聞こえはいいが、国内の成長をあきらめて個人に外貨のリスクを取らせているという現状がある。

国内で資金を有効に活用するためには、誰かの役に立とうと考える意欲的な子どもたちを育てないといけない。それは、投資教育をすることではないはずだ。

そして、大人たちも「預金でお金を眠らせておくのはもったいない」という言葉に安易にうなずかないために、投資の実態を知っておいたほうがいいと思うのだ。

田内 学 お金の向こう研究所代表・社会的金融教育家

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たうち・まなぶ / Manabu Tauchi

お金の向こう研究所代表・社会的金融教育家。2003年ゴールドマン・サックス証券入社。日本国債、円金利デリバティブなどの取引に従事。19年に退職後、執筆活動を始める。

著書に「読者が選ぶビジネス書グランプリ2024」総合グランプリとリベラルアーツ部門賞をダブル受賞した『きみのお金は誰のため』のほか、『お金のむこうに人がいる』、高校の社会科教科書『公共』(共著)などがある。

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