「団塊的・昭和的・高度成長期的」思考からの転換期 「人生の分散型」社会に向かうビジョンと方向性

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「包括的な分散型社会」とは、「都市集中(東京一極集中)」か「地方分散」かという文脈での(空間的な)「分散型」にとどまらず、女性活躍やテレワークなど働き方の柔軟化、企業のサテライトオフィスの展開、仕事と家庭の両立や男性の育児参加といった点など、働き方や住まい方、生き方の全体を含む「包括的な分散型社会」への移行が、持続可能な日本社会の実現にとって何より重要であるという点がAIシミュレーションにおいて示されたのである。

それは象徴的に言えば、「人生の分散型」社会と呼べるような社会のありようとも言える。つまり本稿で述べてきた団塊・昭和・高度成長期に象徴されるような、人口や経済が拡大を続け、それと並行して“すべてが東京に向かって流れる”とともに、人々が単一のゴールを目指し、“男性はカイシャ人間となり、女性は専業主婦として家事に専念する”という「単線的・集中型社会」からの根本的な転換をそれは意味するだろう。

AIシミュレーションが示した未来像は、成熟社会あるいは定常型社会への移行という、日本社会の中長期的な構造変化に関わる内容でもある。しかもそうした方向は個人の「幸福(ウェルビーイング)」にとってもプラスの意味をもつことがシミュレーションの中でも示されている。

真の「持続可能な福祉社会」へ

私自身はこうした形で開かれていく望ましい社会像を「持続可能な福祉社会」と呼んできたが、“団塊的”な価値観からの根本的な移行を経験しつつある現在の時代状況を踏まえながら、日本社会の大きなビジョンと方向性を議論していくことがいま求められている。

そして本稿で一部示唆した、こうした文脈において浮かび上がってくる“「経済大国」から「アニミズム文化・定常文明」へ”という新たな日本像の展望については、機会をあらためて主題的に論じていくこととしたい。

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広井 良典 京都大学 人と社会の未来研究院教授

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ひろい よしのり / Yoshinori Hiroi

1961年岡山市生まれ。東京大学・同大学院修士課程修了後、厚生省勤務後、96年より千葉大学法経学部助教授、2003年より同教授。この間マサチューセッツ工科大学(MIT)客員研究員。2016年より京都大学教授。専攻は公共政策及び科学哲学。限りない拡大・成長の後に展望される「定常型社会=持続可能な福祉社会」を一貫して提唱するとともに、社会保障や環境、都市・地域に関する政策研究から、時間、ケア、死生観等をめぐる哲学的考察まで幅広い活動を行っている。著書に『コミュニティを問いなおす』(ちくま新書、大佛次郎論壇賞)、『日本の社会保障』(エコノミスト賞受賞、岩波新書)、『人口減少社会のデザイン』(東洋経済新報社)など。

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