営業利益5兆円超えトヨタ、減益予想で示す覚悟 EV・AI・ソフトウェアに1.7兆円投じ変革を加速

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自動車業界ではEVシフトや自動運転技術の開発に加えて、ソフトウェアサービスによる新たな価値が新車の商品性を左右する「SDV(ソフトウェア・デファインド・ビークル)」と呼ばれる考え方が広がりつつある。さらに、希少資源を多く使う電池の生産コストが重いEVは、現状のエンジン車に比べて価格上昇が避けられない。今までより新車が売りにくくなることが予想される。

このため、新車の購入後もソフトウェアを通じた性能・機能向上によって対価を得たり、EVを通じた充電サービスや蓄電池を使ったエネルギーサービスなど新たな収益の種を育てる必要がある。EVをより廉価に造るための、生産技術改革も欠かせない。ビジネスモデルや生産手法といった事業そのものの転換に迫られており、部品メーカーや販売店を含むバリューチェーンの構造変化も同時に促さなければならない。

電池事業を祖業とするBYDは、電池に加えて半導体も内製化するなどコアコスト競争力を磨くビジネスモデルを構築。テスラは自動運転・ソフトウェアサービスに加えてEVに特化した効率的な生産体制を追求する。中国のスマホメーカー小米(シャオミ)など異業種参入も相次ぐ。こうした新たなライバルたちとトヨタは戦っていかなければならない。

トヨタはこうした変革に備えて、今期を「足場固め」と位置づける。このためEVを除いた新型車開発のプロジェクトも含めて計画の点検を始めている。トヨタ幹部も「サプライヤーや販売店も含めて一度落ち着いて、事業を改めて見つめ直す」と強調する。

巨額利益に儲け過ぎに批判も

「例えば某自動車は何兆円儲けて、本当はその実儲けの中に、もう経費として下請けに値増し分を払ってやる分が1兆円ぐらいあってしかるべきだ」。日本商工会議所の小林健会頭は、会見で暗にトヨタを批判する異例の発言をした。自動車業界全体でサプライヤーや販売店へのさらなる支援へのプレッシャーが強まっており、きめこまかな目配せが求められそうだ。

販売好調のトヨタにあってEVはまだ助走期間が続いている。2024年3月期のEV販売は11万台と、期初に掲げた20万台とした計画に届かなかった。2026年に150万台、2030年に350万台というEVの「販売基準」を掲げるトヨタだが、宮崎副社長は自動運転やソフトウェアといった先進領域を含めて「我々が遅れている領域があるのは事実」と認める。佐藤社長は需要動向を踏まえて、2026年のEV150万台販売目標にPHV(プラグインHV)も含まれるとの考えを初めて示した。

幸か不幸か、足元のEV市場は拡大ペースが鈍化。EV化で先駆けた欧米の自動車メーカーは戦略を見直し始めた。トヨタはエンジン車やHVで得た利益をEVやソフトウェア、AI(人工知能)への投資に回す。今期のこうした先進領域に関連した設備投資と研究開発費は、前期比5000億円増の計1兆7000億円を計画している。

トヨタ幹部は「今の環境なら4兆~5兆円を稼ぐ実力はある。しっかりと種まきを進めているところ。地に足をつけて、地道にコツコツとできるかどうかだ」と語る。トヨタは2026年以降に次世代EVと位置づける主力の新型EVを続々と投入する計画だ。

2020年代後半以降もトヨタが勝ち続けられるか、ここでの足場固めの巧拙にかかっている。

横山 隼也 東洋経済 記者

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よこやま じゅんや / Junya Yokoyama

報道部で、トヨタ自動車やホンダなど自動車業界を担当。地方紙などを経て、2020年9月に東洋経済新報社入社。好きなものは、サッカー、サウナ、ビール(大手もクラフトも)。1991年生まれ。

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