弁護士がプロボクサーという草鞋も履くワケ 3人の「兼業弁護士」が考える仕事観とは?

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坂本尚志弁護士

だが、ここで、なぜ自分は弁護士になろうとしているのかわからなくなった。そもそもそれ以前も、弁護士になる理由付けは時期によって変化していた。ある時期は「サラリーマンができないから」だったし、またある時期は「自分の実力次第で組織に縛られずに済むから」だったのだ。

結局司法修習を1年遅らせ、この1年間はバイトとボクシングに明け暮れた。ボクシングとの出会いは高校1年のとき。高校がつまらなくなり、次第に登校頻度も落ちていく中でのことだ。

手を焼いた母が学校の先生に相談し、ボクシングジムに通えと言い出した。素直に聞いたのは「行かないと小遣いをやらないと言われたから」。そんなきっかけで始めたボクシングに、すぐ夢中になった。ジムから「高校に行かないと試合に出さない」と言われ、登校も再開した。

東大には体育会ボクシング部があったので迷わず入部。卒業後も出入りした。司法試験合格後の「空白の年」となった2007年9月、全日本の都予選で敗れたことで吹っ切れ、ようやく修習に行く気持ちになった。

ところが、いざ修習が始まってみると、研修所での座学がつまらない。またもや「なぜ弁護士になるのか」という疑問が頭をもたげる。周囲が心配し、「実務修習になれば楽しいから」となだめすかしてくれたおかげで、修習を途中で放り出さずに済んだ。

プロボクサーと両立するための即独

実務修習は大阪で、最初が弁護修習。この時の修習先が、一般民事から企業法務まで実に様々な案件を扱い、特に倒産に強みのある事務所だった。「指導してくれた弁護士がいい先生だったこともあって、ようやく弁護士の仕事のイメージがつかめた」という。

同時に、このときの修習同期に大阪大学のボクシング部の元監督がおり、大阪でジムを紹介されてボクシングを再開。アマチュア時代の実績が評価されて東京の大手ジムとの契約もかなった。イソ弁ではプロボクサーとの両立など許されるはずがないと考え、即独を決意。「プロボクサーになるため」という、弁護士になる明確な理由を見つけることができた。

坂本弁護士が見いだした弁護士になる動機が「プロボクサーになるため」であることについては、賛否両論があるだろう。

筆者の肌感覚で言わせてもらうなら、特に東大出身者には、弁護士になった動機について、それなりの答えが出てこない人が少なからずいる。東大以外の国公立や私大の出身者で、強い動機を語れない弁護士はほとんどいないので、象徴的な現象なのだが、おそらく周りが当たり前に司法試験を受ける環境で、自分も当たり前に受け、当たり前に合格しているからなのだろう。

しかし、そういうエリート弁護士が不誠実であるとか、依頼人の話をろくに聞かないというわけでは決してない。だからこそ迷いに迷う坂本弁護士の真面目さも、一定の理解を得ていいのではないかと思う。

ところで、坂本弁護士はかつて司法修習生の間で有名になったことがある。刑事事件がらみの供託をしようとして拒絶されたため、法務局で大立ち回りを演じたことを自らのブログに書き、炎上してしまったのだ。

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