「取締役会と株主はマスクに支配されている」。シラキュース大学ウィットマン・スクール・オブ・マネジメントの准教授リン・ビンセントは裁判所の判決についてこう語る。「この報酬パッケージを推していた人たちは、株主の利益を積極的に守ろうとする人たちではない。彼らは私的にも金銭的にも、マスクの生活に組み込まれていた」。
裁判所の判決をぶっちぎる独善提案
テスラ取締役会は、株主に報酬パッケージ復活を求めることで、判事マコーミックの裁定を実質的に無効化しようとしているのだ。
テスラ取締役会の議長ロビン・デンホルムは17日、株主に宛てたメッセージで、「われわれはデラウェア州裁判所の裁定には同意しない。デラウェア州裁判所の判断は会社法の本来のあり方ではないと考える」と述べた。これとは別にテスラは、判事の裁定に不服を申し立てる予定だと明らかにしている。
デンホルムは、マスクに約束されていた報酬を認めないのは「根本的にアンフェア(不当)だ」とし、テスラは過去6年間、無効とされた報酬プラン以外にマスクには何も支払っていないと述べた。
とはいえ、マスクはテスラ株から巨額の富を得ている。コーネル大学産業・労使関係学部で客員講師を務める元報酬コンサルタントのブライアン・ダンによれば、報酬プランは過去の働きに対する報いではなく、将来の成果に対するインセンティブを幹部に与えることが想定されている。
ダンは、マスクがソーシャルメディア・プラットフォームのX(旧ツイッター)や、スペースXなどのベンチャー企業群を所有していることに言及。「報酬プランには、マスクがテスラに集中するよう要求するものは何も含まれていない」と話し、「これは取締役会が今もぬるま湯につかりきっている証拠だ」と付け加えた。
近ごろのテスラは問題まみれのため、報酬パッケージ無効の裁定は「アンフェア(不当)」だとする取締役会の主張に不快感を覚える投資家もいる。
「会社が現在の目標を達成できず、従業員の10%を解雇するなかで、史上最大規模の報酬パッケージの承認を求めるのはタイミングとして最悪だ」と、アクティビスト投資家グループ「チューリップシェア」のCEOアントワーヌ・アルグージュは語った。
チューリップシェアは、温暖化ガス排出と労働者の権利に関する基準を満たすことをテスラ役員報酬の条件とすべきかどうかについて、株主投票を行うことを提案した。テスラの取締役会はこの提案に反対している。