企業機密か観光か、悩める八幡の"世界遺産" 思わぬ展開に新日鉄住金と北九州市は大慌て

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1899年に竣工した初代本事務所。中央のドームが印象的な煉瓦建造物で、長官室や技監室などが置かれた

美しい赤煉瓦の建物の脇を、ひっきりなしに車両が通りすぎていく。年間500万トン弱の鉄を作る八幡製鉄所の構内には、トラックやバスが行き交うだけでなく、鉄を運ぶための専用鉄道まである。

その製鉄所の片隅に、左右対称での均整のとれた建物があった。幅約30メートル、奥行き約15メートル、2階建てで決して大きな建物ではないが、よく見ると赤煉瓦に白石が絶妙なコントラストをなしていた。今から120年ほど前の1899年に建てられた、八幡製鉄所の旧本事務所だ。1922年の製鉄所の規模拡大に伴って管理機能が移転されるまで、本事務所として使われていた。

案内されて中に入ると、耐震補強工事の生々しいあとが残る。現在、一部施設は往年の姿を取り戻すべく改修中だ。八幡製鉄所は当時、単に「製鉄所」と呼ばれ、農商務省(現在の農林水産省と経済産業省)の傘下にある政府の施設だった。製鉄所の所長を務めるのは農商務省の長官。コンクリートむき出しのまま残された長官室は7.5坪と思ったよりも狭かった。

誰かが教えてくれなければ、これが“世界遺産”になりそうだとはとても気付かないだろう。そもそも、一般人の目にはなかなか触れない製鉄所の奥地に存在するので、知る人も少ない。そんな場所に突然、スポットライトが当たり、関係者は困惑している。

韓国の態度軟化で登録濃厚

6月28日からドイツのボンで開かれるユネスコ世界遺産委員会では、日本の「明治日本の産業革命遺産」が世界文化遺産の候補となっている。幕末から明治にかけて、日本が西欧の技術を取り入れ、近代化を推進したいくつかの施設について、世界遺産への登録が検討されることになった。当初は歴史問題をめぐる対立から韓国の反発が懸念されていたが、最近態度を軟化させたことで世界遺産への登録が濃厚となってきた。

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