崖っぷち「イカ王子」民事再生後も目指す再起 窮地が続く東北被災地の水産業を伝え続ける
震災後、故郷への思いを新たにした鈴木さんの次の一手は、宮古港が全国有数の水揚げ量を誇るマダラの活用。
宮古では鮮度の良いマダラを刺身で食べる習慣はあるものの、料理のレパートリーが少なく、加工品もない。若い世代にはとくになじみのない魚だった。
「イカやサケ、サンマという三陸の魚の不漁が続く中で、安定的に水揚げされるマダラで美味しいものを作って宮古を盛り上げたい」と新商品の開発に向けて動き出した。
そこで生まれた「王子のぜいたく至福のタラフライ」は目論見通りのヒット商品に。
マダラをPRするための「真鱈まつり」や宮古市内の水産加工品を扱うECサイトなどで先頭に立ち、「地域の顔」としてイカ王子を前面に押し出した企画を続けた。
結果、王冠をかぶり三陸の海やイカについて情熱的に語る“王子”のキャラクターが話題を呼び、地元メディアだけでなく、スポーツ紙などさまざまな媒体で水産業復興のシンボルとして取り上げられた。
農水省や総務省、復興庁などで被災地の「先進事例」として紹介されたこともある。
海の異変
だが、表舞台での活動の一方、海の異変は少しずつ深刻さを増し、会社の経営も厳しくなっていった。
中でも震災の前年には全国で19万9800トンの漁獲量があったスルメイカは、2016年には10万トンを割り込み、2022年には3万トン台まで激減。宮古港を含む岩手県内での水揚げ量も、最盛期の2000年ごろと比べると、7分の1以下の2590トンに落ち込んだ。
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