崖っぷち「イカ王子」民事再生後も目指す再起 窮地が続く東北被災地の水産業を伝え続ける

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「1kg400円だった仕入れ値が3倍以上に膨らみました。1商品当たりの量を減らして、実質的に値上げするなど価格転嫁を図ってきましたが、年々赤字が膨らみどうにもならない状態に陥ってしまいました」

民事再生法の適用申請を申し立てたのは2023年10月4日。

鈴木良太さん
1月、宮古真鱈まつりで接客する「イカ王子」(写真:Instagram @ika_prince1108 より)

既存の取引は止まり、クレジットカード決済の受け付けが停止されたためにECサイトでの販売が難しくなった。それまでは取引先などからの電話がひっきりなしに鳴る毎日だったが、連絡は途絶えた。

「精神的にもどん底」の状態の中、事業再生の命運をかけてスポンサー探しに奔走している。

だが工場は水産庁の補助金を使って建てたため、水産物以外の加工ができないという制約がある。このことがネックとなり、スポンサーとの交渉は難航しているという。

三陸の厳しい状況を伝える「使命」がある

起死回生の道は平坦ではない。先が見通せない、苦しい状況が続いているが、民事再生法の適用申請から約2カ月後にはXやYouTubeを再開。王冠を外した姿で、情報発信を続ける。

「三陸の水産、日本の水産業のために命を削ろうと決めました。イカ王子として、どん底にいる姿をお見せしながら発信をしていきたい」

商品販売会で寄せられたメッセージ
適用申請後に始めた商品販売会で寄せられたメッセージ(筆者撮影)

そこには、どん底にいるのは共和水産だけではないという思いがある。

三陸の漁業の根幹だった秋サケ漁も震災後、記録的な不漁が続く。稚魚を放流する事業を続けているにもかかわらず、本来4年前後で生まれた河川に戻ってくるはずのサケが帰ってこない。

震災前の2010年と比べると、98%も減少し、1日で1万匹近く捕獲していた定置網に1匹も入らない日もある。水産業だけでなく定置網漁業や漁協も厳しい経営が続く。

「まわりの漁業者や水産加工業者も震災直後に描いた経営計画の範疇を越えた状況に陥っている」と訴える鈴木さん。

「三陸のこの厳しい状況があまりにも知られていない。危機的な状況も発信し続けるのがイカ王子としての使命。まだ終わるわけにはいきません」

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手塚 さや香 岩手在住ライター

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てづか さやか / Sayaka Tezuka

さいたま市出身。毎日新聞の記者として盛岡支局や学芸部で取材経験を積んだ後、東日本大震災からの復興の現場で働くため、岩手県釜石市に移住。復興支援員として活動し、2021年にフリーランスとして独立。一次産業や地方移住の分野を中心に取材・執筆しているほか、キャリアコンサルティングや地域おこし協力隊の支援活動も行っている。

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