この答えを聞いて、思えば筆者も出張の際、同様の逡巡の結果、リッチモンドを選んだ記憶が蘇った。これを伝えると、「そこが非常に大事なのではないでしょうか。なにかひとつのサービスを尖らせるのではなく、『いつも期待を裏切らない準備をする大切さ』がリッチモンドらしさなんだとそのとき再認識しました」と力強い答えが返ってきた。
「リッチモンドらしさ」。実は今回の取材を通じ、宗像氏が何度も言った言葉だ。その真意はどこにあるのか。改めて問うと、「人の良さ」だと即答された。
「お伝えしてきた通り、私たちはターゲットを1つに絞って、そこに向かってマニュアル的に提供するサービスは行っていません。目の前のお客様に丁寧に対峙し、ニーズにコツコツ対応しています。
その根底にあるのは『お客様のために』という姿勢。研修、マニュアルでも強調しているのはそこです。60年以上にわたる外食産業で培った『顧客第一』の姿勢とホスピタリティが集約されているのだと思います」
だからこそ、人の良さがリッチモンドらしいのです、と宗像氏。社員であろうとアルバイトであろうと、自主的、主体的なサービスを行うことを重んじる企業風土が、そんな人を生み出しているのだ。らしさは、「ひとと自然にやさしい、常にお客さまのために進化するホテル」という経営理念にも色濃くにじんでいる。
総支配人=経営者である
人の良さが核にあるリッチモンド。だが、当然ながらホテルはそれだけでは経営を続けていけない。売り上げや利益はどのようにコントロールしているのか。
「経営のハンドルを握るのは各総支配人です。リッチモンドでは創業から総支配人=経営者と考え、FCさながらの権限を渡しています。そしてこれは、ES(従業員満足度)を重視した結果でもあります。総支配人は、予算作成から収入支出、客室単価、補修保全、イベントも含めて全責任を負っています。基本的に彼・彼女が出した意見を基にホテルは回っている。もちろん大変ですが、やりがいも大きいのではないでしょうか」(宗像氏)
自主性を重んじる姿勢は、経営に関しても同様ということか。ちなみに、採用権限も総支配人にあり、自らが一緒に働きたい相手を選ぶからこそスタッフを尊重し、アルバイトから出た意見も反映できる環境が成し得るそうだ。
聞けば聞くほどに温かい現場のイメージが膨らむリッチモンド。ただ、ある種性善説に委ねている部分も大きく、他ホテルがこの体制を再現するのは至難の業ではないかとも感じる。自主性を重んじるというと聞こえはいいが、そもそも、モチベーションが高く接客が好きな人材がいなければ、物事が前に進まなくなってしまうからだ。疑念をぶつけると、宗像氏は大きくうなずいた。
「そこは本当に恵まれているとしか言いようがないですね。ただ、自浄作用のような力も働いていると感じます。過去には、利益を重視してトップダウン的な指示を出す方もいました。でも、それだと現場は言うことを聞かず、必ずうまくいかないのです」
何事もボトムアップで従業員ファーストな姿勢は、もはや経営側が変えたくても変えられないのだ。「きっと、それもリッチモンドらしさです。でもなぜか誰も、この『らしさ』を端的な言葉で言い表すことができないんですよね」と宗像氏は微笑んだ。
これに対して、取材に同席した編集担当のO氏が、「リッチモンドらしさ」について「なんだかヨギボーみたいですね。形はわからないけれどあったかくて、ゲストにとっても働く人にとってもふんわりゆったり心地いい」と口にすると、宗像氏、渡邉氏は「たしかに」と目を輝かせた。
ヨギボーみたいなホテル。言い得て妙だが、なるほどたしかにそこには、期待を裏切られない温もりと心地よさが常にある。
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