この点、実際に利用料を支払う自治体との間で認識のずれも垣間見える。
記者が話を聞いた、関東地方の一般市の担当者は「国からクラウドの明確な利用金額や細かい試算が出るのを待っている。それまで(ガバメントクラウドの)導入の検討はしない」と語り、国が情報開示することを疑わなかった。前出のデジタル庁の担当者は「説明会で自治体に状況を説明しているが、全自治体が出席するわけではない。通知も全自治体に行っているが、100%認知されているかわからない」と漏らす。
デジタル人材不足やベンダーの撤退など、さまざまな混乱が予想されながら、もはや後戻りすることもできない国家プロジェクト。今後、自治体が着実にシステムを移行させるためには、どうすればいいのか。
カギを握りそうなのが、同様の課題に直面する都道府県内の自治体間の連携強化だ。新たな組織を立ち上げ、都全体で区市町村のシステム移行を推進している東京都の取り組みは、1つのヒントになる。
東京都が100%出資する外郭団体のガブテック東京は、都庁と区市町村の間をつなぎ、都内全域で自治体のDXを推進するために、2023年9月に事業を開始した。東京都副知事で、ガブテック東京理事長を兼務する宮坂学氏は「都庁でも区市町村の支援はできなくはないが、都庁内にある組織だと、都庁の仕事が最初になってしまう。あえて都庁の外に出し、区市町村と都庁の真ん中にニュートラルに置く形にした」と説明する。
ジョブローテーションで同じ業務の継続が難しい役所に対し、外郭団体では、デジタルに明るい専門人材を長期スパンで投入できるという利点もある。都庁からだけでなく、民間からも技術面に詳しいプロジェクトマネジャーやエンジニアをはじめとする人材を積極採用している。2023年度の人員は80人程度だが、2024年度には220人程度まで拡大する方針だ。
行政システム始まって以来の難事業
システム移行に向けては、広域自治体の東京都と、基礎自治体の区市町村をつなぐ役割を果たす。区市町村の担当者と意見交換しつつ、移行に苦慮する「ひとり情シス」の自治体を技術的に支援したり、都と連携しながらコスト面の課題をはじめとする自治体側の要望を集約して国に伝えたりしている。
東京都内でも、10区9市町村が2025年度内までの移行が困難になっている現実がある。宮坂氏は「この国の行政システムが始まって以来の大事業であり、難事業となる。1割の自治体が『怖い』と言っているのに、イチかバチか思い切っていこう、というタイプの仕事ではない。『安全第一』で進めるのが重要だ」との認識を示す。
日本史上最大級となるシステム移行計画を前に、現場は今なお手探りの対応が続く。行政の知恵を結集して新しい形に生まれ変わっていくのか、それとも再び「デジタル敗戦」を繰り返すのか。タイムリミットが迫る中、これから正念場を迎える。
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