自治体を悩ませているもう1つのコスト問題は、システム移行後の運用経費だ。こちらは当然自治体側の負担になるが、政府は自治体によるシステムの移行完了後、運用経費を2018年度比で少なくとも3割減らす目標を掲げてきた。
しかし、この「コスト3割減」といううたい文句に、自治体やベンダーからは疑問の声が上がっている。
「現状の試算や、先行自治体の状況を見ても、コストのメリットがまだ出ていない。クラウドに接続する回線経費などもかかり、簡単に費用の3割減という効果は出せない」。そう疑問を呈するのは、北海道の一般市の担当者だ。
中国地方の町役場の担当者も、「われわれの試算では、むしろ現在よりも大幅に費用が高くなり、ランニングコストは3~4倍に膨らむ可能性がある」と嘆く。
ある大手ベンダーの関係者は「今回、政府が移行対象とする業務システムは20個で、すべてのシステムを移行せよ、というわけではない。別々の形で運用するシステムを抱えることになると、一時的に二重業務になってしまうので、逆に効率が悪くなる可能性が高い。10年後は別にせよ、少なくとも全体でみた場合は、すぐに3割も運用コストが下がるわけはない」と実情を明かす。
クラウド利用料の大口割引の効果は?
政府は「3割減」の目標達成について、初期計画(2020年)では「システムの運用経費」を「2026年度まで」と明示していた。しかし、その後のシステム標準化に向けた基本方針(2022年策定)では、対象を「標準化の対象システムの運用経費」と限定する一方、達成時期は単に「移行完了後」としている。比較対象がわかりにくいことから、数字が独り歩きしているような印象もある。
デジタル庁の幹部は「長い目で見れば、制度改正時のシステム改修コストが減り、住民向けの新サービスを作りやすくなる。将来的にコストが下がっていくのは間違いない」と強調する。
システム移行に向けた音頭を取るデジタル庁は、自治体の負担軽減に向けた取り組みを進めている。その目玉が、複数の自治体が使うクラウドの事業者とデジタル庁が一括契約することによる、利用料の「ボリュームディスカウント(大口割引)」だ。
ただ、デジタル庁によると、政府が正式に採択したガバメントクラウド事業者のうち、AWS(アマゾン・ウェブ・サービス)は「将来的に20%引きを目指す」との考えを示す一方で、他の3事業者は秘密保持契約を理由に効果は明らかにできないという。「公表できるよう交渉しているが、なかなか厳しいとも感じる。現状では自治体に詳細を伝えることができず、利用料を支払う段階になって初めて値段がわかることになりそうだ」(デジタル庁の担当者)。
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